2016年12月21日

簡易課税を選択する際の注意点


 個人事業を行う際でも、法人を設立した際でも、年間の(課税)売上高が1000万円を超える場合は、国に消費税を納めなければなりません。概略は、以下のような仕組みです。

@ 皆さんが売上をお客様に請求する際に、皆さんが受け取るべき売上に8%の税金を追加して請求します。そうして入金した金額のうち、加算した8%部分は本来お客様が国に納めるべき税金(消費税)を国に代わって回収しただけであり、これは一時的な「預り金」となります(貸借対照表における表示は仮受消費税等)。

A 皆さんが仕入先や取引業者に仕入代金、固定資産、諸経費等の支払いを行う際には、皆さんが支払うべき代金に8%の税金が追加されて請求されます。そうして支払った金額のうち、加算されていた8%部分は本来皆さんが国に納めるべき税金(消費税)を取引先が代理で回収したにすぎません。これは一時的な「預け金」となります(貸借対照表における表示は仮払消費税等)。

B 決算日後2カ月以内に消費税の確定申告を行い、「預り金」から「預け金」を控除した差額を税務署に納付します。

 この仕組みによると、事業が普通に回っているのであれば、預り金の方が預け金より大きくなる傾向にあります。なぜなら、支払いをする経費には、消費税8%が加算されない性質のものが多々あるからです。主なものは、給与賃金、法定福利費などの人件費ですが、保険料や支払利息にも消費税は加算されません。
 預金口座に貯まっている現預金の一部は、この納付に充当すべき「預り金」であります。勘違いして資金繰りに投入してしまうと、後で消費税が納付できない、という事態が起きかねないので、要注意です。
 なお、期中に借り入れを起こして多額の設備投資を行うなど、大きな買い物を行うと、預り金より預け金の方が大きくなり、確定申告の結果、「還付」になる場合もあります。いっぱい商品を仕入れたのに、ちょっとしか売れなかった、という場合も「還付」になりがちです。
 以上の消費税の基本的な枠組みは、「原則課税」と呼ばれております。その一方で、まだ事業規模が小さく、年商(課税売上高)が5000万円以下の場合は、事務負担の軽減される「簡易課税」の制度を選択することが出来ます。
 これは支払い側の消費税(預け金:仮払消費税等)の集計を省略し、売上高の消費税(預り金:仮受消費税等)のみを集計して、そのうちの●%を「みなし仕入率」として乗じることにより支払い側の消費税を簡便的に計算し、売上高の消費税との差額を納付する、というやり方です。
 前述のとおり、支払い側の取引については、消費税の加算されている支払いや加算されていない支払いが混在しておりますので、支払い側の消費税(預け金:仮払消費税等)の集計をするのは結構大変です。一方で、売上高の消費税(預り金:仮受消費税等)を算出するのは、売上高÷108×8という計算で単純に算出できる場合が多いので、納付すべき消費税の計算が楽なのです。なお、預り金:仮受消費税等に乗じるべき「みなし仕入率」は以下のとおり定められております。

 第一種事業(卸売業)90%
 第二種事業(小売業)80%
 第三種事業(製造業等)70%
 第四種事業(その他の事業)60%
 第五種事業(サービス業等)50%
 第六種事業(不動産業)40%

 卸売業や小売業は、会社の規模が小さくても売上高と仕入高が大きく膨らみ、売上高に占める人件費等の消費税のかからない支払いの割合が小さくなる傾向がありますので、みなし仕入率が高めに設定されております。その一方で、売上高に占める人件費等の占める割合が高い傾向にあるサービス業は、みなし仕入率が低めに設定されているのです。
 実際には、原則課税と簡易課税の計算結果双方をシミュレーション比較して、有利な方を選択することになります。届出は、設立初年度に限り決算日までに届出を行えばよいのですが、2年目以降は、期首が始まる前に届出を行わないと適用を受けられないので、有利不利は予想に頼らざるを得ません。なので、実際に消費税の確定申告をしてみると、間違った選択をしていた、というケースも多々発生します。
 
 簡易課税の選択をシミュレーションする際の注意点は、以下のとおりです。

1.簡易課税を選択すると「還付」という概念はなくなり、必ず「納付」になる。

 原則課税の場合は、支払い側の消費税(預け金:仮払消費税等)が、売上高の消費税(預り金:仮受消費税等)より大きい場合は、「還付」になります。ただし、簡易課税を選択してしまうと必ず売上高の消費税(預り金:仮受消費税等)の一定割合を納付するしかなくなります。なので、簡易課税を選択してしまった後に多額の設備投資を行ったり、売上高が大きく減少してしまうと、本来還付できたはずの消費税を納付する破目になる場合もあります。

2.口座貸しなどを行う場合

 例えば、社内にエンジニアを雇用するIT会社があったとします。発生する支出のほとんどが人件費であれば、簡易課税を選択して売上高の消費税(預り金:仮受消費税等)の50%を納付した方が有利ということになるので、簡易課税を選択したとします。
 その後、ITの世界ではよくある話なのですが、親しい同業他社から、大手企業に直接取引口座が開設できないので、すでに口座を開設している当社に取引の間に入ってほしい、と依頼されるケースがあります。いわゆる「口座貸し取引」です。そうなると帳簿上は、売上高と微々たる口座貸し手数料を差し引いた外注費が同時に計上されることになります。外注費は消費税が加算される支払なので、支払い側の消費税(預け金:仮払消費税等)が大きく増えることになります。
 これが非常に厄介であり、本来預り金と預け金のわずかな差額だけ納付すればよいはずにもかかわらず、簡易課税を選択してしまっていると売上高の消費税(預り金:仮受消費税等)の50%を納付しなければならなくなってしまいます。結果、受け取る口座貸し手数料よりも消費税の納付増加額の方が大きくなってしまう、という逆転現象が起きかねません。
 簡易課税を選択している会社は、口座貸し取引を依頼されても断った方が無難です。

3.2年間変更できない。
 簡易課税を一度届け出てしまうと、2年間は変更できません。
 原則課税と簡易課税のどちらが有利なのか、判断が微妙な場合は、あえて届出を出さない方が良いかもしれません。
 
 以上ですが、簡易課税を届け出る際は、事業の今後の展開など、よくよく見据えながら選択するようにいたしましょう。


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posted by ふみふみ at 10:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 起業・設立の豆知識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年12月14日

タックスヘイブン合算課税の強化について@


 平成28年12月8日付で、平成29年度税制改正大綱が公表されました。今回特に注目されていたのは配偶者控除の改正とタックスヘイブン対策税制の強化でした。今回の記事では、このうちタックスヘイブン対策税制の改正内容について見ていきたいと思います。

 従来は、日本の内国法人もしくは日本居住者の外国子会社株式所有割合が直接・間接含めて50%以下であれば、形式的にタックスヘイブンの所得合算課税からは除外されていました。なので、たとえペーパーカンパニー的な投資会社であっても、50%の株式を現地の第三者に所有してもらえば、合算課税を逃れることが出来たのです。

 ただし、平成29年度税制大綱では以下のような記述が追加されております。

「A居住者又は内国法人と外国法人との間にその居住者又は内国法人がその外国法人の残余財産のおおむね全部を請求することが出来る等の関係がある場合におけるその外国法人を外国関係会社の範囲に加えるとともに、その居住者又は内国法人を本税制による合算課税の対象となるものに加える」

⇒ この文章からは、資本関係のないSPC等であっても実質的な支配が認められるのであれば合算課税の対象にする、という税務当局の意図がうかがえます。
 
 また、以下のような記述もあります。

「国税当局の当該職員が内国法人にその外国関係会社が経済活動基準を満たすことを明らかにする書類等の提出等を求めた場合において、期限までにその提出等がないときは、その外国関係会社は経済活動基準を満たさないものと推定する。」

⇒ これは、外国関係会社に活動実体があることを表す書類を納税者側が速やかに提出できない場合、税務当局は証明責任を負わずして、ペーパーカンパニーと推定することが認められるということです。

 また、新たに以下の規定が設けられ、タックスヘイブンの合算課税の対象が広げられることになりました。

(1)ペーパーカンパニー
 以下のいずれも満たさない場合は、ペーパーカンパニーと認定されて、タックスヘイブン合算課税の対象となります。

(イ)主たる事業を行うに必要と認められる事務所等の固定施設を有している。
(ロ)本店所在地国において事業の管理、支配及び運営を自ら行っている。
(ハ)課税当局が上記を証明する書類の提出を求めた場合に速やかに提出する。

⇒ ただし、以上の要件は、従来のタックスヘイブン合算課税の適用除外基準とほぼ同じと言えます。

(2)事実上のキャッシュボックス
 総資産の額に対する有価証券、貸付金、無形固定資産等の合計額の割合が50%を超え、かつ、総資産の額に対する「受動的所得」(部分課税の対象となるもの)の割合が30%超える法人

⇒ この規定が今回の改定の目玉と言えます。投資用の法人がこの基準をクリアーするためには、新たな方策が必要になります。 

(3)「ブラックリスト国」所在法人
 租税に関する情報の交換に非協力的な国又は地域として財務大臣が指定する国又は地域に本店等を有する外国関係会社

⇒ なお、2009年のOECD報告でブラックリストに掲載されていたシンガポールは、2015年では除外されており、「G7諸国並みに税の透明性と情報交換に関して基準を満たす国・地域」に含まれております。

 以上の会社は、本店のある外国の租税負担割合が30%未満であれば、タックスヘイブンの合算課税の対象となります。従来のタックスヘイブン対策税制においては、租税負担割合が一律20%未満の国又は地域が対象でしたが、この規定により対象範囲が拡大されたことになります。

 以上の他、部分課税の適用についても改正がありましたが、それについては別記事で検証したいと思います。
 
 なお、法律の適用時期は平成30年4月1日以後から開始される外国関係会社の事業年度となります。


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posted by ふみふみ at 12:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 国際税務を武器にする時代です | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする