2012年11月08日

気を付けなければいけないタックスヘイブン対策税制


 日本よりも法人税率の低い国は、世界中に数多く存在します。ただし、海外に設立された子会社がペーパーカンパニー状態であった場合などは、その国の低い税率が適用されずに日本の税率で課税されてしまいますので注意が必要です。これが、いわゆる「タックスヘイブン対策税制」という制度です。これは、海外法人が日本法人から独立した事業体である体裁が整わず、節税メリットのみを目的として設立されたに過ぎない場合、海外法人で上げた収益を日本法人の所得に合算して、日本の税率で課税してしまうという制度です。独立した事業体という形態を整えたつもりであっても、税務調査で度々ひっくり返されるケースがあるので、過去の判例などを紐解き、慎重にストラクチャーを組む必要があります。
 
【日本においてタックヘイブン対策税制が適用される要件】
(1)外国法人のうち、日本居住者及び日本内国法人によって直接及び間接に50%以上、かつ、6カ月以上継続して持分を保有されている(ただし所有比率については租税条約があればそちらを優先)
⇒ 1社だけで所有する、いわゆる海外子会社というケースに限りません。日本在住の複数の株主で分散して株式を所有する場合でも、その持分割合の合計が50%以上になっていれば、適用されてしまいます。

(2)所得に対する税負担が20%以下である外国に設立された法人であること
 この要件に当てはまる会社を税法の用語で「特定外国子会社等」と言い、このタックスヘイブン対策税制が発動する外国の法人税率のことを「トリガー税率」と言います。
⇒ 以前は25%以下でしたが、平成22年の税制改正により20%以下に引き下げられました。

(3)内国法人側は、上記の特定外国子会社等の持分を直接及び間接に5%以上保有している場合には、合算課税の対象となる。

⇒ (1)で述べたように、外国法人が特定の日本企業の子会社である必要はなく、日本の企業が何社か集まって、その持分割合が合計で50%以上であれば、その外国子会社はタックスヘイブン税制が発動する対象となります。ただし、それらの日本企業のうち、実際にタックスヘイブン税制が発動するのは、外国法人の株式を5%以上持っている日本法人であり、5%未満の持分比率である日本企業は、発動を免れることになります。発動した日本企業は、海外法人の所得×持分割合を自身の所得に合算して、日本の税率で課税されることになります。

【適用が除外されるための要件】
 タックス・ヘイブン対策税制は、軽課税国を利用して税負担の回避を図ることを防ぐための制度ですので、正常な経済活動の一環として、たまたま軽課税国に子会社等を設けているケースについては、合算課税の適用は行われません。

● 実体基準
 特定外国子会社等の本店または主たる事務所の所在地において、その事業を行うのに必要な事務所、店舗、工場などの固有的施設を有すること

● 管理支配基準
 特定外国子会社等がその所在地国において事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること

● 非関連者基準
 特定外国子会社等が、卸売業、銀行業、信託業、証券業、保険業、水運業または航空運送業を営む場合には、その主たる取引の50%超を関連者以外のものと行っていること
(ただし、平成22年の改正により卸売業統括会社が被統括会社と取引している場合、その被統括会社の先にある取引先は結局第三者であるので、関連者割合の計算における関連者から除外可能となりました)

● 所在地国基準
 特定外国子会社等が上記の非関連者基準の場合の業種以外の業種に従事しているときには、その事業を主としてその本店所在地国内で行っていること

 ただし、特定外国子会社等の営む主な事業が@株式、出資持分、債権の保有、A工業所有権、著作権などの提供、B船舶、航空機の貸付け(裸用船、裸用機に限られる)である場合には、上述の適用除外要件に当てはまったとしても一律に認められないことになっております。それは、このような事業の場合内国法人がタックスヘイブン国に子会社を設けて行う経済的合理性が乏しく、主に租税回避目的によるものと考えざるを得ないからです。ただし、この規定は平成22年に更なる改正が加えられ、地域統括持株会社は@の例外として、適用除外の対象として認められることになりました。

 その代り、同じく平成22年のタックスヘイブン対策税制の改正において、上記の判定で適用除外会社と認定される会社であっても、以下の資産所得に対する利益は、合算課税されることになりましたのでご留意ください。本来の事業の所得に当たらない部分は、保護するには当たらない、という趣旨と思われます。
・一定の剰余金の配当
・利子
・償還差益
・譲渡対価
・使用料
・貸付による対価


参考になるサイト
 国税不服審判所:http://www.kfs.go.jp/service/MP/12/0213000000.html
 ジェトロ:http://www.jetro.go.jp/world/qa/i_basic/04A-010814


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posted by ふみふみ at 14:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 国際税務を武器にする時代です | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

国際的に活躍する芸能人等への課税


 今までの記事でご案内したとおり、国際税務の場合「恒久的施設なければ課税せず」という租税条約の大原則があります。しかし、芸能人やスポーツ選手の所得や芸能プロダクションのような事業法人を通じて得られる所得に関しては、この原則の「例外」と言われておりますので、注意が必要です。

 例えば、一般的な租税条約の教科書となるOECDモデル条約では、第14条自由職業所得条項及び第15条給与所得条項があるにも関わらず芸能人として行う個人的活動によって取得する所得に対しては、芸能人等が芸能活動を行った国、すなわち役務提供地国において第一次の課税権を与えております(第17条第1項)。これは、シンガポールと日本との租税条約におきましても、同様に規定されております。

 また海外でも活動する芸能人やスポーツ選手が事務所等に所属しており、個人的活動の所得がそれらの事務所等に帰属する場合であっても、第7条事業所得条項、第14条及び第15条の規定を適用せず、芸能人等が芸能活動を行った地域、役務提供地国に第一次の課税権を与えております(第17条第2項)。

 芸能人等の職業の方々は、世界のどこの国でも活動が可能なため、居住地国の税務当局がその活動の全貌を把握するのは困難を極めるのが実情です。それゆえ、一番活動実態を把握しやすい役務提供地国において課税することができるようにしているのです。たとえ、芸能人等が海外の芸能活動で発生した所得を隠すために個人芸能プロダクションを設立し、そのペーパーカンパニーの事業活動として芸能活動を行ったとしても、第17条第2項の規定が設けられているため、課税からは逃れられないのです。

 このような取り決めがあるため、海外で芸能活動を行った場合、基本的にギャラ(報酬)から源泉税が天引きされます。それは個人が受け取る場合でも事務所が受け取る場合でも一緒です。通常は、源泉税率は20%とお考え下さい。この源泉税は、日本国内での確定申告で還付できる可能性があるので、きちんと確定申告しましょう!

【芸能人等の範囲:所得税法基本通達161−10の3】
・映画若しくは演劇の俳優、音楽家、声楽家等の芸能人
・プロボクサー、プロレスラー等職業運動家
・職業運動家にはアマチュア・ノンプロであっても役務提供により報酬を受け取る場合を含みます
・職業運動家には、陸上競技などの選手に限られず、騎手、レーサーのほか、大会などで競技する囲碁、チェス等の競技者等が含まれます


参考になるサイト
国税庁:http://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/gensen/aramashi2007/mokuji/10/01.htm

 
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posted by ふみふみ at 09:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 国際税務を武器にする時代です | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする