2012年11月17日

海外勤務から帰国した社員の年末調整


 経済のグローバル化は日増しに加速し、大企業のみならず中小企業の海外進出も増えています。企業の海外進出には、お金や技術だけでなく人(社員)の移動も伴います。海外出向者の税務につきまして、海外出向中は基本的に所在地国(海外)で処理されていますが、帰国後は日本の所得税法に従って処理することになります。そろそろ年末調整の時期も近づいてまいりましたので、海外勤務から帰国したばかりの社員の年末調整について、事例を用いて解説しようと思います。

Q1.
 海外子会社に出向していたAさんは、会社の辞令を受け、6月15日に日本に帰国しました。関係先への挨拶や休暇を取った後、6月20日から東京本社に出社しました。いつから日本の居住者となるでしょうか?

⇒ A1.
 辞令を受けた日や出社した日ではなく、日本に帰国した日の翌日から日本の居住者となります。(所基通2−4)

Q2.
 当社の給与は、前月の21日から当月の20日までの分を当月の25日に支払うことになっています。6月15日に帰国したAさんにも当月分を6月25日に支払う予定ですが、源泉所得税についてはどのようにすればよいのでしょうか?

⇒A2. 「給与所得者の扶養控除等申告書」を帰国後の最初の給料支給日前までに提出してもらい、支給額全額を対象に月額表甲欄によって源泉徴収を行います。海外出向から帰国したAさんは、帰国日の翌日から居住者となりますが、我が国の課税の範囲は所法7条(課税所得の範囲)で「非永住者以外の居住者 すべての所得」とされていますので、帰国後に支払われる給与はその所得源泉地(給与支払の起因となる勤務が行われた場所)に関係なく、全てが課税対象となります。賞与についても同様で、1月1日から6月30日までの勤務期間に係るものを7月に支給する規定になっている場合、所得源泉地(働いた場所)を考慮することなく、帰国後の7月に支給された全額を対象に源泉徴収することになります。

Q3.
 6月15日に帰国したAさんの年末調整の対象となる給与は何月からでしょうか?

⇒A3.
 帰国後に支払われた給与等(6月25日以降に支払われた給与)のみが対象となります。
また、「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出していて、帰国後に支払われた給与等の合計額が2,000万円以下であれば、年末調整の対象者となります。

Q4.
 4月1日に5年間の予定で海外子会社への出向のため出国したAさんが、健康上の都合により退職したBさんの後任として、急遽6月15日に日本に帰国し、東京本社で勤務していた場合、年末調整の対象となる給与はどの部分でしょうか?

⇒A4.
 Aさんは4月1日までが日本の居住者で、4月2日からは非居住者とされていました。4月2日から6月15日に帰国するまでの間は、非居住者期間となります。よって、1月1日から4月1日までと帰国後の居住者の期間6月16日から12月31日までに支払われた給与額を対象に年末調整をすることになります。実務では、4月1日の出国時に年末調整を一度していますので、帰国後の給与の額と合算して、再年調の要領で年末調整を行います。

Q5.
 6月15日に帰国したAさんの配偶者控除や扶養控除の金額はどうなるのでしょうか?

⇒A5.
 所得税法85条(扶養親族等の判定の時期等)では「その年の12月31日の現況による」とされており、居住者であった期間での按分等を行う必要はありません。
 なお、配偶者控除の所得要件の「合計所得」には非居住者期間の日本国外源泉所得は含まれませんので、配偶者が帰国前に海外で収入を得ていたとしても、除外して判定することになります。

Q6.
6月15日に帰国したAさんが、海外出向中に支払った日本の社会保険料(子供の国民年金等)や生命保険料は所得控除の対象となりますか?

⇒A6.
 所得税法74条(社会保険料控除)と76条(生命保険料控除)の規定では「居住者が、各年において〜〜支払った」とされており、支払った金額のうち、居住者である期間に支払った金額だけ所得控除の対象となります。なお、海外出向中に海外の生命保険会社と契約し、帰国後も解約せずに保険料を支払い続けていた場合、帰国後に支払った保険料は生命保険料控除の対象とはなりません。
 所得税法76条第5項では、控除対象となる生命保険の範囲として「〜当該外国生命保険会社等が国外において締結したものを除く」とされています。

Q7.
 海外出向から9月15日に帰国したBさんは、海外出向1年前に住宅を取得し、その年の住宅取得等特別控除を受けました。海外に3年ほど出向していましたが、本年は住宅取得等特別控除を受けることができますか?なお、海外出向前に所轄の税務署長に対して、措法41条第12項に規定する届出書を提出しています。

⇒A7.
 Bさんは本年からまた、住宅取得等特別控除を受けることができますが、本年(最初の年)は年末調整ではなく確定申告になります。居住者が会社の転勤命令に従って転居し、住宅取得等特別控除を受けている家屋を居住の用に供することができなくなった場合において、転勤が解消され再び居住の用に供することができるようになった場合には、残りの期間について住宅取得等特別控除を受けることができます。(措法41条第11項)
 この適用を受けるためには、所轄の税務署長に対して届出をする必要があり、再び住宅取得等特別控除の適用を受ける場合には、その最初の年に「再居住に関する証明書類」を添付して確定申告することになります。
 なお、帰国した年の課税対象となる所得が少なく、住宅取得等特別控除を満額受けられない場合は、翌年の住民税から控除を受けることができる場合があります。

Q8.
 単身での海外出向から9月15日に帰国したCさんは、海外出向1年前に住宅を取得し、その年の住宅取得等特別控除を受けました。海外に3年ほど単身で出向していましたが、家族はそのままこの住宅に住み続けていました。本年は住宅取得等特別控除を受けることはできますか?

⇒A8.
 Cさんは帰国後の年末調整から、住宅取得等特別控除を受けることができます。住宅取得控除を受ける要件として、措法41条第1項は「居住日以後その年の12月31日まで引き続きその居住の用に供している年に限る」としていますが、措通41−2(引き続き居住の用に供している場合)では、「転勤などのやむを得ない事情により家族と別居することになった場合において、その家屋を親族が引き続き居住の用に供しており、転勤等のやむを得ない事情が解消した後はその者が共にその家屋に居住することとなると認められるときは、その者がその家屋を引き続き居住の用に供しているものとする。」としており、住宅取得控除の適用を受けることができます。(前述7.の手続きを行う方法もありますが、7.の手続きを失念していてもこのケースでは問題ありません。)
 また、住宅取得控除の規定では、「居住者」が住宅の取得等をし、居住の用に供した場合に限り、この特別控除等の適用をうけることができるとされていますので、この質問のケースが日本国内への単身赴任でしたら、単身赴任中でも住宅取得控除を受けることができます。海外に単身赴任等をし、その年の12月31日において「非居住者」である年分について、この特別控除等の適用はありません。

Q9.
 (ケース1)
 昨年(平成23年)1月に居住用マンションを購入して2月に居住し始めたDさんが、昨年の6月に海外転勤を命じられ、一度も住宅取得控除を受けないまま家族と出国していました。しかし、急遽本年(平成24年)10月に日本勤務を命じられ、昨年1月に購入したマンションに再び居住しています。
 (ケース2)
 本年(平成24年)1月に居住用マンションを購入して2月に居住し始めたEさんが、6月に海外転勤を命じられ、家族と出国していました。しかし、急遽10月に日本勤務を命じられ、本年1月に購入したマンションに再び居住しています。

  DさんとEさんは、住宅取得控除の適用を受けることができますか?

⇒A9.
 Dさんは本年から住宅取得控除を受けることができますが、Eさんは本年も将来も住宅取得特別控除を受けることができません。措法41条第14項が平成21年度改正により新設されましたが、そこでは、「住宅を取得して自己の居住の用に供した者が、その年の12月31日までの間に転勤を命じられる等やむを得ない事情により、その者の居住の用に供しなくなった場合、当該居住年の翌年以後、再びその者の居住の用に供した場合は、残年数間住宅取得控除ができる。」と規定されています。
 この第14項にも第15項の再居住を始めた年度の手続きにも「国内に限る」や「出国時の手続き」には何ら触れていませんので、国外転勤にも適用されます。
 Eさんは、第14項が「翌年以降の居住開始」に限っているので、この第14項の規定を受けることができません。また、海外赴任中に居住の用に供していなかったので、同条第1項において住宅取得控除が受けられる要件「居住日以後その年の12月31日まで引き続きその居住の用に供していること」を満たしていないことになり、住宅取得控除をまったく受けることができないことになりますので、特に注意が必要となります。

 
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2012年11月13日

非居住者になれるかどうかのポイント! PE(恒久的施設)とは


 外国に進出している企業もしくは海外に移住した個人が、現地国で課税対象となるのか、それとも日本国内税率で課税されてしまうのかに関しては、原則として「PE(恒久的施設)が存在するかどうか」という点で判定されます。国際税務においては「恒久的施設がなければ課税なし」という大原則があります。逆に言えば、日本国内にPE(恒久的施設)があると認定されてしまえば、海外の低い税率を享受することはできず、日本の税率で追徴課税されてしまうということです。それでは、PEとはどのように定義されるのでしょうか。

【法人税におけるPE(恒久的施設)の定義】
 PEとは、一般に、「事業を行う一定の場所であって、企業がその事業の全部または一部を行っている場所」と定義されます。恒久的施設の範囲は、日本国内法、租税条約およびOECDモデル条約にそれぞれ規定がありますが、例えば国内法においては次の3つに区分されています(法人税法141条、法人税法施行令185条、186条、所得税法164条、所得税法施行令289条、290条)。

● 1号PE(支店PE)
 @ 支店、出張所、事業所、事務所、工場、倉庫業者の倉庫
 A 鉱山・採石場等天然資源を採取する場所
 B その他これに準ずる場所(ホテルの一室を事務所とする、展示即売場など)
 ただし、資産の購入や保管のために使用する場所、あるいは広告、宣伝、情報の提供、市場調査、基礎的研究等、その事業の遂行にとって補助的な機能を有する活動を行うためにのみ使用する場所はPEに含まれないこととされています。販売を伴う場合は、PEとみなされる傾向があります。
 ⇒ すべての国内源泉所得が総合課税の対象となる。

● 2号PE(建設PE)
 建設、据付け、組立て等の作業、またはその指揮監督の役務の提供を「1年」を超えて行う場合のその場所。
 ⇒ 1号所得から3号所得までは総合課税、4号所得以下の国内において行う事業所得については源泉徴収のうえ総合課税、国外所得は源泉分離課税で終了。

● 3号PE(代理人PE)
 国内に自己のためにその事業に関し契約を結ぶ権限のある者で、
 @ これを常習的に行使する者
 A 商品等の資産を保管し顧客への引き渡しを行う者
 B あるいは注文の取得、協議等の重要な部分をする者。
 ただし、代理人等がその事業に関わる業務を独立して行い、かつ、通常の方法により行う場合の代理人等は除かれます。
 ⇒  1号所得から3号所得までは総合課税、4号所得以下の国内において行う事業所得については源泉徴収のうえ総合課税、国外所得は源泉分離課税で終了(2号PEと同じ)。

● 4号PE(PEのない非居住者)
 事業所得(1号所得のうちの一つ)は非課税、資産所得等(事業所得以外の1号所得)は総合課税、2号所得及び3号所得は源泉徴収のうえ総合課税、4号所得以下は源泉分離課税で終了。

【所得の種類】
 上記で「●号所得」という表現が出てまいりますが、所得の種類が以下のとおり規定されてますので、こちらをご参照ください。
1号所得:事業所得、資産運用所得、組合契約事業利益の配分、
資産譲渡所得
2号所得:人的役務の提供事業の対価(芸能人、スポーツ選手、士業、
科学技術を有する者など)
3号所得:不動産の賃貸料等
4号所得:利子所得
5号所得:配当所得
6号所得:貸付金の利子
7号所得:使用料(ロイヤリティ)
8号所得:給与、報酬、年金、退職手当
9号所得:広告宣伝のための賞金
10号所得:生命保険契約等に基づく年金等
11号所得:定期積金の給付補填金
12号所得:匿名組合契約に基づく利益の配分


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