2013年07月17日

非居住者として日本の株式を売却した場合の課税関係


 弊事務所は、シンガポールへの進出サポートを行っておりますが、シンガポールはキャピタルゲインが非課税だと言われております。つまり、シンガポール居住者になれば、株式を売却した場合などの譲渡所得に課税はされないということです(ただし、事業として株式の売買を繰り返している場合は課税されます)。
 もちろん、日本から見た場合は「非居住者」ということになるので、日本国内においても株式譲渡益は原則課税されません(所得税法施行令291条)。

 日本の所得税法での「非居住者」の要件ですが、事業を経営している方であれば、日本国内に恒久的施設(いわゆるPE)を有しないようにする必要があります(詳細は別記事「非居住者になれるかどうかのポイント! PE(恒久的施設)とは」をご参照ください)。
 サラリーマンの方は、1年以上の予定での海外転勤の場合であれば、日本国内に住所を有しないものと推定され、所得税法上の非居住者となります。

 ただし、非居住者の場合であっても、以下の場合は株式の譲渡所得として日本で課税をされてしまいますので、留意する必要があります。日本での譲渡所得は、国内居住者であれば分離課税で15%の国税と5%の住民税がかかりますが、非居住者の場合住民税がないので、15%の国税のみを納税することになります。

(1)日本法人の株式等の買い占めを行い、この株式をその日本法人もしくは特殊関係者等に譲渡する場合
  (所得税法施行令291条第1項第3号イ)
※ 特殊関係者等:役員、主要株主、これらの親族、これらの支配する法人など。

→ 例えば、外国人が、日本企業の株式を買い占めてそれを高値で関係者に売りつけようとしているのであれば、課税上保護する必要がないということでしょう。

(2)非居住者が株式譲渡をする日本法人の「特殊関係株主等」である場合
  (所得税法施行令291条第1項第3号ロ)
※ 特殊関係株主等:(3)でいう特殊株式等を所有する株主、これらの親族、これらの支配する法人など。

→ いわゆる事業譲渡類似株式の譲渡と言われるものです。例えば、25%以上の持ち株を保有する新興企業のオーナーが、非居住者になってから自社株式を課税なしで売り抜けようとしても、この規定により日本で課税される譲渡所得として取り扱われてしまう、ということです。     

(3)税制適格ストックオプションの権利行使により取得した「特定株式等」の譲渡による所得
  (租税特別措置法29条の2、租税特別措置法施行令19条の3)
※ 特定株式等:内国法人の発行済株式又は出資金額の25%以上を、配当確定日以前6ヶ月以上有している場合の株式又は出資のこと。

→ こちらの規定も(2)と同様の趣旨だと考えられます。非居住者が25%以上の支配率を有する株式をストックオプションとして保持していた場合も、やはり日本で課税される譲渡所得となります。

(4)特定の不動産関連法人の株式の譲渡による所得
  (所得税法施行令291条第1項第4号)
※ 特定の不動産関連法人:総資産の50%以上を不動産が占める法人

→ 実質、不動産の譲渡と同一と考えられるので、不動産の譲渡所得と同様に、国内での課税が発生することになります。

(5)日本に滞在する間に行う内国法人の株式等の譲渡による所得
  (所得税法施行令291条第1項第6号)

→ 日本の証券会社の口座でで上場株式等を所有している場合、海外居住者の株式の売買は法律で禁止され、海外滞在中の証券口座は凍結されます。日本の証券会社の株式を売却するために日本に滞在した場合、結局譲渡所得に日本での譲渡所得税が課せられます。
 これは、証券会社口座で管理する上場株式等の売却をする場合、移住前だと税金が取れるのに、移住後だと税金が取れないということになってしまうと課税政策上不合理になってしまうので、国外に移住する前に手持ちの証券の税金は全部納めていけ、ということだと思われます。弊事務所のお客様で海外に移住される方々は、結局この規定があるので、移住前に日本証券会社の口座にある株式をすべて処分されたうえで、移住されておられます。

(6)日本国内にあるゴルフ場の株式形態のゴルフ会員権の譲渡による所得
  (所得税法施行令291条第1項第5号、280条第2項第6号)

→ 預託金方式のゴルフ会員権と同様に、日本国内での課税となります。

 以上ですが、ザックリとまとめますと、以下のようになります。
● 非居住者になる前に、日本の証券会社口座にある上場株式等は全て処分することになる。
● オーナー経営者として保有していた事業法人の非上場株式は、25%以上の支配がある場合は、非居住者となった後の売却でも日本で課税される譲渡所得となってしまう。

 日本で譲渡所得が課税されないためには、海外に移住してから海外の証券会社か投資銀行の口座で日本株の投資を始めるか、非上場の会社の株式であれば、25%以下の支配率であることが条件となります。


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2013年03月05日

ミャンマーの税制 〜 概観


 最近、テレビ・新聞などで日本企業のミャンマー進出に関する報道が多く見受けられるようになりました。三井物産、伊藤忠商事などの総合商社、三井住友銀行、三菱東京UFJ銀行などのメガバンクのほか、ローソン、ファーストリテイリングなどの小売業界の大企業もすでにミャンマーへの進出を決定したと報じられております。また、準大手企業や中小企業の中にも、報道まではされないもののミャンマーへの進出をすでに決めている企業が多いようです。
 皆様もご存じのとおり、ミャンマーでは長年続いていた軍事政権が終焉を迎え、政策転換が行われております。2010年11月7日に総選挙が実施され,23年振りに国会が召集され、民主化に向けた政策、法案が続々と国会を通過するようになりました。長年の懸案だった二重為替レートの問題も2012年4月に一本化されており、海外企業を誘致するための法的整備も進行中であり、経済発展に向けての礎は確実に築かれつつあると言えるでしょう。

 ミャンマーはこれからインフラなどの整備、開発が行われるとのことで、大きなプロジェクトがいくつも立ち上がる見込みです。そのため、日本をはじめとする海外企業のビジネスマンが続々と入国しておりますが、「ホテルなどの宿泊施設が足りない。」「夜に過ごせるお店が少ない。」「クレジット決済に時間がかかる」など、まだまだ先進諸国の人間からすれば過ごしにくい環境であるようです。そのため、ホテルの建設や飲食店の設立などをビジネスとして行おうと考えている方々もいらっしゃいます。また、東京証券取引所と大和証券グループの支援により、証券取引所が2015年を目指して設立される予定です。数年後に上場する見込みのある企業に対して、今のうちから投資を実行しようとする風潮も所々で見受けられます。

 ミャンマーの納税制度については、税務調査の制度も確立されておらず、まだおざなりになっている面もあるようですが、現地に進出するに当たっては、最低限の基本的な税制は把握しておくべきだと思いますので、以下、ミャンマーの税制の概要を記述して参ります。

【法人所得税】
@ 原則
 現地法人を設立した場合の法人税率は25%、支店を設立した場合の法人税率は35%です(ただし、ミャンマー投資委員会の認可を受けた場合は25%になります)。なお、欠損金の控除期間は3年間であり、日本の9年に比較して短くなっております。

A 外資優遇措置
 ミャンマー投資委員会(MIC)の優遇措置の適用を申請し、外国投資法に基づき設立されたすべての企業は、優遇措置の対象となり、事業開始から5年間は法人所得税の免除が認められます(2012年の外国投資法改正による)。
 それ以外にも、有形固定資産の加速償却、原材料や設備の輸入関税の免除、輸出取引の商業税の免除、外国人雇用者の所得税の支払を法人課税所得から控除できる制度など、様々な優遇措置が設けられております。

【個人所得税】
@ 居住者、非居住者の判定
 ミャンマーに183日以上居住する者、もしくは定常的な住居を有する者が、ミャンマーにおける「居住者」になります。ミャンマーの国内において発生した所得は、居住者・非居住者に関わらずミャンマー政府による課税対象になります。ミャンマー国外で所得が発生した場合、非居住者の外国人のみ非課税となりますが、非居住者のミャンマー市民、もしくはその逆で居住者である外国人とも、ミャンマーでの課税が行われてしまいます。すなわち、ミャンマーはアメリカと同じく「全世界所得課税」を採用していると言えます。
 なお、日本は国内に住所を有し、または現在まで継続的に1年以上住居を有する個人を居住者と定義していることから、ミャンマーと日本の両方で居住者認定を受ける可能性もあります。この点、まだ両国間で租税条約が未締結であるため(2013年2月現在)、調整する仕組みが確立されておらず、留意が必要です。

A 所得税計算の流れ
 給与所得、事業所得、不動産所得、譲渡所得、雑所得などを合算した総所得金額から所得控除を行ったうえで、税率を乗じるので、計算過程は日本の所得税制と似ています。税率は累進課税方式で1%〜30%の範囲で行われます。日本との違いで言えば、年金、保険金、配当が非課税であるということが挙げられます。なお、有価証券の譲渡益は、売却した日から1カ月以内に申告しなければならず、税率は一律10%です。

【商業税(消費税)】
 原則5%ですが、米麦、野菜、魚などは免税となっております。また天然ガス、高級車、チーク材などについては、8%から100%の奢侈税が課せられます。商業税の申告及び納付は、毎月発生した商業税につき翌月7日までに行う必要があるため、注意が必要です。なお、年次の確定は決算日から3カ月以内に行います。

【源泉徴収制度】
 ミャンマーでは、以下の源泉徴収が行う必要があります。
@ 利息:非居住者のみに対して15%
A ロイヤルティ:居住者に対しては15%、非居住者に対しては20%
B 給与、事業体等との契約による支払:居住者に対しては2%、非居住者に対しては3.5%
 なお、配当に関する源泉はありません。

【その他の知識】
@ 取締役、会計監査人
 外資100%での設立の場合、非公開会社のみ設立となり、株主は最低2名以上必要なので、海外親会社からの資本金が99%と親会社の代表者などが残りの1%を引き受けるという形が一般的です。この非公開会社の場合、取締役は2名以上必要となりますが、2名とも外国人でも差支えなく、現地の人間を人選する必要はありません。また、会計監査人の設置が必須となり、現地の公認会計士を選任しなければなりません。なお、会社の決算日については、法人税の課税期間が4月1日から3月31日までと定められているので、3月31日に合わせるのが一般的です。

A 外国人料金
 ミャンマー政府は、水道光熱費や通信費などのインフラ料金に「外国人料金」を設定しており、外国資本が1%でも入っている企業は「外国会社」と指定され、外国人料金が適用されます。

 以上が概要ですが、ミャンマーにおいては今後の経済発展を見越して税制も含め制度の改正が頻出する可能性がありますので、継続的なウォッチングが必要になることでしょう。


参考になるサイト:
 ジェトロ http://www.jetro.go.jp/world/asia/mm/invest_04/

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