2012年11月26日

会社分割@:会社分割の種類


 さて、今回の記事では、「会社分割」について、より詳しく考察していきたいと思います。会社分割に関する本は巷に沢山出版されておりますが、
・「吸収分割」と「新設分割」の2種類がある。
・「人的分割」と「物的分割」の2種類がある。
という話が必ず出てきます。まずはそこから。

【吸収分割と新設分割】
 まず、会社分割とは、分割元の会社が持っている事業の一部を、外部に切り分けることを言います。この時、外部に切り分けた事業が新しい法人として設立されると「新設分割」となります。一方、外部に切り分けた事業が他の法人の一部として譲り受けられることを「吸収分割」と言います(他法人に切り分けた事業が吸収される)。

 吸収分割は事業譲渡とほぼ同じ効果を得つつ、事業譲渡の欠点を補った制度として成立しました。事業譲渡は、その事業に係わるすべての契約を個別に巻き直す必要があることが欠点ですが、吸収分割は、官報公告を出すことによって、包括的に事業が譲り手に引き継がれる制度ですでの、その点のメリットがあるといえます。ただし、もしその事業に「隠れ債務」のある可能性があった場合、包括的に隠れ債務まで引き継いでしまうこと、また、法的には事業譲渡の方が手続きが簡便的であることから、現在でも事業譲渡を選択する
ケースは多々あります。

 一方で新設分割についてですが、新設分割の制度ができる前は、まず子会社を設立してその後に事業譲渡をするという形がとられておりました。新設分割の制度が整備されたことにより、その法的手続きによって、子会社の設立と事業譲渡が同時にできることになったわけです。これは一瞬便利になったように感じられますが、実務上のテクニックとしては、新設分割を利用するよりは、まず空の子会社を設立して、その後に「吸収分割」の手続きにより事業を移管する方がいいと言われています。なぜなら、新設分割の場合、新会社の設立があったものと法的に認められるのが、すべての手続きが終了して登記が完了してからです。公告期間などを考えると、2カ月前後を要することになるため、それまで銀行口座開設をすることができません。一方で、先んじて空の子会社を設立しておけば、すぐに銀行口座を開設でき、同時並行的に会社分割の手続きを行っていけばよいのです。会社分割が行われると、分割された事業の売掛金の入金口座が変わることになるため、新規の振込口座は早めに開設できたほうがよいのです。

【人的分割と物的分割】
 まず、人的分割というのはほとんどお目にかかったことがありません。世の中のほとんどの会社分割は物的分割と言ってよいと思います。

 物的分割は、事業の一部を切り出した際に、切り出し元の会社が、切り出した事業の対価として切り出し先の会社の発行する会社の株式等を取得する形式をとります。 新設分割の場合であれば、新設子会社の株式を取得し、吸収分割であれば、事業を吸収してくれた会社の新たに発行する株式を取得することになります。実務上は、この形がほとんどです。

 その一方で、人的分割というのは、事業を切り出すことにより、切り出し元の株主が、切り出し元の会社の株式と切り出し先の会社の株式の両方を持つようになるやり方です。
 会社法が整備されてからは、物的分割を前提に条文が組み立てられ、人的分割は、物的分割の一部とみなされるようになりました。すなわち、まず物的分割が行われて切り出し元の会社が、切り出し先の会社の株式を取得すると当時に、その株式の「現物」を株主に「現物配当」することにより、人的分割と同じ効果が得られるという建付けにしたのです(会社法763条)。
 
 次回の記事では、会社分割の際の注意点等、ご紹介していきたいと思います。


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2012年11月14日

合併@:合併を実行する前に必ず検討しなければいけないこと


 今回の記事では、「合併」について、より詳しく考察していきたいと思います。会社法上は、「吸収合併」という方式と「新設合併」という方式がありますが、現存の会社をすべて解散して新規に会社を新設する「新設合併」が使用されることはほとんどなく、実務上はどちらかを存続会社とする「吸収合併」が用いられます。

 吸収合併の際に、金銭に関わる問題として議論になる点は、以下の通りです。

@ 合併比率:吸収される「消滅会社」の株主に、存続会社の株式がどれだけ割り当てられるのか
 ⇒ 株式はあくまで所有者の財産です。合併比率が不利な割合になれば、実質的に「資産の目減り」となります。直接的に金銭の絡む話であり、この合併比率が不調に終わって合併が破談になるケースがよく見受けられます。

A 繰越欠損金の引き継ぎ:吸収される「消滅会社」の繰越欠損金が、存続会社で使用可能か
 ⇒ 今まで同一の支配関係になかった会社同士が合併する場合、「共同事業要件」を検討していくことになります。共同事業要件を満たして繰越欠損金が引き継げる場合を「税制適格」と言います。共同事業要件については、別の記事にて詳しく検討して参ります。

B みなし配当課税:「消滅会社」の株主に「存続会社」の新株が付与される際の価値の上昇に課税
 ⇒ Aにおいて「税制非適格」と判定された場合、消滅会社の株主は存続会社の新株を受け取ることにより、「清算所得」を受け取ったとみなされます。計算上、当初株式を拠出した時よりも価値が上昇していると判断される場合は、その上昇分について「みなし配当課税」が課せられます。個人の配当所得は総合課税で累進税率の対象となりますので、規模の大きい非適格合併の場合、納税額が巨額になるケースもあります。なので、「適格合併」となるか「非適格合併」となるか、及び非適格合併を敢行する場合にみなし配当課税がどれぐらい課せられるかは、合併を実行する事前に必ず検討しなければなりません。

 なお、金銭に係わること以外でも、社名、役員の処遇、従業員の処遇、システム、ホームページ、得意先への説明のタイミングなど、決めるべきことはいくつもあります。
 これらの検討課題については、
・タスクリストを作成して処理方針を決めること
・スケジュールリングして進捗状況を管理すること
が必要になってきます。

 以上かいつまんで合併の前に検討すべき事項をお話しさせていただきました。この検討を怠ってしまうと、場合によっては金銭的な影響が甚大になりますので、合併を行う前に必ず税理士、会計士などの専門家に相談して下さい。


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