2012年11月29日

合併B:簡易合併と略式合併


 今回の記事では、簡易合併と略式合併について解説させていただきます。

 吸収合併をする場合、原則として、効力発生日の前日までに存続会社及び消滅会社それぞれで株主総会の特別決議での承認が必要です。しかし、以下に記載する簡易合併又は略式合併の要件を満たす場合は、株主総会の特別決議が不要となり、取締役会の承認を得れば足りることになります。これは、上場会社など株主が多数の会社にあっては、株主総会の開催も容易ではなく、小規模企業を吸収合併する際などに株主総会を開催する実益に乏しいため、会社法において認められた制度です。

@ 簡易合併
 存続会社が合併で新株等の対価を消滅会社の株主に交付する場合、この対価の額が存続会社の純資産額の20%以下であるときは、「存続会社において」株主総会の承認決議が不要となります(会社法796条)。
 これは、吸収する側の存続会社のみに適用される規程であり、残念ながら消滅会社には、株主総会の省略は認められません。
 なお、上記要件を満たす場合であっても、消滅会社が債務超過会社であったり、存続会社が株式に譲渡制限を付している場合は、株主総会の省略は認められませんので、注意が必要です。
 結局、この条文は上場会社向けの規定であり、株式に譲渡制限がついている中小企業には、ほぼ関係がないことになります。

A 略式合併
 一方当事会社が、もう一方当事会社の総株主の議決権の90%以上を直接または間接に支配している場合は、子会社において株主総会の承認決議が不要になります(消滅会社:会社法784条、存続会社:796条)。なぜなら、株主総会で当然に承認を得ることが分かっているので、あえて開催する必要がないからです。ただし、親会社側が譲渡制限付株式を新規に発行して対価とする場合は、やはり略式合併は認められないので、留意が必要です。

 以上ですが、簡易合併、略式合併ができると思って書類を作成したら、実際はできないケースで会社法違反だった、ということがないように、弁護士、司法書士、会計士などの専門家に事前相談することを推奨させていただきます。


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合併A:合併スケジュール


 今回の記事では、通常の吸収合併の場合のスケジュールについて説明させていただきたいと思います。
 会社の合併は、会社法に定める条文の規定に則って行われ、法的に成立させるためには会社法の要件を全て充足する必要があります。なお、寡占市場において大企業同士が合併をしようとする場合には、独占禁止法についても留意する必要があります。独占禁止法が「公正かつ自由な競争」を実質的に制限することになる合併を制限しており、公正取引委員会の認可が必要になります。最近でいえば、合併ではないのですが、ヤマダ電機がベスト電器を子会社化することについて、公正取引委員会の審査結果でOKでましたね。

 さて、株式会社間の吸収合併は、以下の手続を経て行われます。

@ 水面下での合併の交渉で、ある程度の合意が成立

A 吸収合併契約の締結

B 吸収合併契約等に関する書面等の備置き及び閲覧等
 (消滅会社:会社法782条、存続会社会社法794条)

C 株主総会の承認
 (消滅会社:会社法783条、存続会社:会社法795条)

D 株主・登録株式質権者・新株予約権者への通知又は公告
 (消滅会社:785条、存続会社:会社法797条)

E 債権者に対する官報公告、会社が把握している債権者に対する個別催告通知
 (消滅会社:会社法789条、存続会社:会社法799条)

F 異議を述べた債権者又は反対株主等に対する対応(株式買取、弁済等)
 (消滅会社:会社法787条〜789条、存続会社:会社法797条〜799条)

G 合併の効力発生

H 存続会社の変更登記及び消滅会社の解散登記申請

I 事後開示書面の備置
 (消滅会社:会社法791条、存続会社:会社法801条)

 これらの一連の手続きは、合併比率などの交渉期間を除いたとしても、2〜3カ月はかかります。上記の公告期間を1カ月見なければいけないことも一因ですが、それ以外に取引先対応、従業員への説明、合併後の社名、ロゴ、ホームページ、システムなど、決めなければいけない事象が多岐にわたることにも起因します。
 あと、実務的には、E債権者に対する個別催告で、どの程度の債権者にまで通知すべきかが議論になります。融資を受けている銀行やメインとなる仕入れ先などは当然ですが、例えばアスクルから事務用品を月1万円程度購入しているとして、そのレベルの未払金の債権者にまで個別催告するとなると通知先が膨大になってしまいますので、省略されるケースが多いようです。

 なお、この一般的な合併スケジュールの例外として、簡易合併及び略式合併があります。両者については、次回以降の記事で開設していきたいと思います。


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