2013年07月10日

合併を行う際の存続会社の資本金の額の決め方 


 今回の記事は、合併の際に実務上必ず議論になる、合併後の資本勘定の決め方についてです。
 資本金、資本剰余金、利益剰余金などの各勘定は、単純に考えれば、存続会社の従来の金額に、消滅会社(吸収される会社)の金額をそれぞれ加算されるように思われます。
しかし、実務上は必ずしもそうではありません。資本金が増加して1億円以上となった場合、外形標準課税の発生や留保金課税の発生など、いろいろ税務上は不利な面があるので、税務だけの都合で考えるのであれば、資本金はできるだけ1億円以下にしたいところです。

 基本的に、合併や会社分割などの組織再編は、「会社法」規定に従うことになります。具体的には、会社法第749条において合併契約を締結する際に定めなければならない事項が列挙されているのですが、その中で、合併に際して株式を交付する場合における「発行される株式数」、「株数の算定方法」、並びに「合併存続会社の資本金と資本準備金の額に関する事項」を定めることとなっております。

 この資本金の額は、会社法の細則として定められた「会社計算規則」により、以下のように規定されております。

1.会社計算規則第35条第1項(変動する株主資本等の総額の決め方)

第一号:支配取得に該当する合併:
 引継資産及び負債を「時価評価」することを基礎として算定
第二号:共通支配下における合併:
 引継資産及び負債の「帳簿価額」を基礎として算定
第三号:上記以外の合併:
 第二号に準拠

 この「変動する株主資本等の総額」とは、簡単に言ってしまえば、合併により増加する純資産の金額のことです。
 また「支配取得に該当する合併」とは、簡単に言ってしまえば、、第三者がオーナーであった会社を合併することにより、新たにその事業を獲得する場合です。この場合は、新たに取得する資産と負債を時価換算したうえで受け入れることになります。
 その一方で、「共通支配下における合併」とは、子会社を吸収合併したり、子会社同士を合併させる場合です。この場合は、帳簿価額のままの引継で構わず、法人税の課税もないことになります。

 なお、合併する会社がグループ外の会社なのか、グループ内の会社なのかで、税務上の扱いが大きく変わり、グループ外の会社を合併する際が特に注意しなければいけないのですが、その点については以前の記事「合併@:合併を実行する前に必ず検討しなければいけないこと」をご参照ください。「みなし配当課税」は要注意です。

2.会社計算規則第35条第2項(変動する株主資本等の総額の割り振り ~ 原則)
@ 変動する株主資本等の総額が零以上の場合:
 合併契約書の定めに従い、資本金及び資本準備金を増加させ、利益剰余金は変動させない。
A 変動する株主資本等の総額が零未満の場合(債務超過の会社の合併):
 その他資本剰余金の額を減少させ、それでも足りない場合はその他利益剰余金を減少させる。

 @の場合(純資産がプラスの会社を合併する場合)、存続会社が消滅会社から受け入れる純資産の金額については、資本金と資本剰余金をどのように金額的に割り振るかについて、合併契約書で自由に決めることができます。例えば、営業政策的な問題で資本金をできるだけ大きく見せたいのであれば、資本金に金額を多めに割り振ればよいのですが、、資本金を増加させると合併登記の際に増加額の1000分の7の登録免許税が課せられます。また、税務上も中小企業の優遇税制や外形標準課税が、資本金1億円を境として取り扱いが変わるため、節税のためには資本金にはできるだけ金額を割り振らない方がよいことになります。

3.会社計算規則第36条(変動する株主資本等の総額の割り振り ~ 株主資本等を引き継ぐ場合)
 合併の対価がすべて株式であり、適切と判断される場合は、消滅会社の資本金、資本剰余金、利益剰余金の額を、そのまま存続会社に引き継ぐことができる。

 
 前述の第35条第2項のAの規定により、債務超過の会社を合併(いわゆる無対価合併)する場合は、原則存続会社の資本金は増価させません。ただし、この第36条の規定により、「適切と判断される場合」は資本金の額を増やすことを選択することができます。
 
 なお、上場企業の場合は、「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」第185項に基づき会計処理をすることになりますが、会社計算規則とほぼ同一の内容が記載されております。

 また、税務申告書上の処理は、上記のどの割り振り方を採用したとしても、消滅会社の資本金及び資本剰余金の額を存続会社の「資本金等」として受け入れて別表五(一)に記載することになります。


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2013年06月21日

債務超過の会社を合併して繰越欠損金を利用するための要件 


 日本の法人税法においては、課税所得の800万円までは軽減税率が適用されるため、事業が複数ある場合は、会社を分割し所得分散を図った方が節税対策となる、と以前の記事で記載させていただきました。
 ただし、これは分散した事業がすべて黒字になればこそ。事業分散した法人の一つが赤字を計上した場合は、黒字の法人との損益通算ができなくなってしまうため、逆に増税効果を招いてしまいます。

 そのような場合に損益通算を行う一つの手法として、連結納税制度の導入が考えられますが、この届け出は適用を開始したい事業年度の始まる3カ月前までに提出する必要があります。ということは、届け出を提出してから実際に効果を発揮するまで1年3カ月もかかるので、即効性はありません。
 かといって、無理やりグループ間同志で損益を付け替えるための取引を「捻出」してしまうと、税務調査があった場合に税務当局に目を付けられてしまいます。いくら契約書を作成していたとしても、経済合理性のない取引と税務当局に認定されてしまった場合は、費用を負担した側が「寄付金認定」を受けてしまい、追徴課税を申し渡されてしまいます(グループ法人税制が適用されるケースは除く)。税務調査の際の労力も相当な負担になるので、経済合理性を主張できる余程の自信がない限りは、安易なグループ間取引は控えるべきだと考えます。

 一番確実な手段と言えるのは、債務超過となり繰越欠損金が生じた会社と元気な黒字会社とを合併する組織再編です。ただし、欠損金を抱える会社を消滅会社として吸収合併を行う場合、この消滅会社の繰越欠損金を存続会社で使用するためには「税制適格」合併として認定される必要がありますので、その成立要件に留意する必要があります。

 債務超過の会社が関係する組織再編は「無対価組織再編」と呼ばれております。従来より、通常「税制適格」と認定される組織再編は、

・合併の対価として株主に交付されるのは株式のみ
・会社分割の対価として分割元法人に発行される対価は株式のみ

という条件が付いておりました。ただし、合併で債務超過の会社を吸収したり、会社分割で債務超過の会社を切り出す場合は、

・事業価値が0円なので株式は発行しない

ということになりがちです。この場合、果たして税制適格なのか、それとも税制非適格なのか、が税法上曖昧のままでした。

 この問題を解決するため、平成22年度の税制改正により、無対価の組織再編における税制適格の要件が定められました。内容としては、

(1)無対価による会社分割につき、これが分割型分割に該当する場合と、分社型分割に該当する場合にそれぞれ区分されて新たに定義され(法人税法第2条十二の九ロ、同条十二の十ロ)
(2)無対価組織再編成の適格性の判定について、原則として資本関係の変わらないものは適格再編成、資本関係の変更を伴うものは非適格再編成

と整理されました。加えて、無対価合併、無対価分割、および無対価株式交換の適格性を判定するにあたっての持株要件も、以下のように明確になりました(法人税法施行令第4条の3)。

【無対価組織再編の持株要件】
● 合併会社が被合併会社を100%支配する親子関係であること
● 合併会社と被合併会社が「一の者」に100%支配される兄弟関係であり、合併後の会社も引き続き100%同一の株主に支配される見込みであること
● 合併会社とそれを100%支配する「一の者」で被合併会社を100%支配しており、合併後の会社も引き続き100%「一の者」に支配される見込みであること
● 被合併会社とそれを100%「一の者」で合併会社を100%支配しており、合併後の会社も引き続き100%「一の者」に支配される見込みであること

 この「一の者」の定義が非常に厳しく、国税庁は「本人のみ」という見解を示しております。つまり、妻や親子など親族が株式の一部を所有している場合においても、「非適格」という判定が下されてしまうのです。

国税庁のサイト:http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/shitsugi/hojin/33/20.htm

 合併法人もしくは被合併法人のどちらかに、わずかでも本人以外の株主を迎え入れてしまった場合は、債務超過に陥ったグループ会社を黒字の会社に吸収させて繰越欠損金を消化することは難かしくなってしまいます。なので、相続対策などで株式を親族で分散所有するケースでの無対価組織再編の活用は難しく、ホールディングス(持ち株会社)の傘下にある法人同士の組織再編で有効な手段になると言えるでしょう。



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