以前の記事でも取り上げましたが、先日行われた平成25年度税制改正により、平成27年より発生する相続については基礎控除額が下げられることとなりました。以前は「大金持ち」の話であった相続税の話も、今後は「小金持ち」クラスでも気にしなければいけなくなってくる傾向にあります。業界の見方ですが、今後「法人税は下がるが、所得税・消費税・相続税は上がる」と言われております。
●法人税が下がる … 企業を活性化するためには、他国に比較して上げるわけにはいかない。
●所得税が上がる … 累進課税なので、金持ちからは多めに税金を取るため。
●消費税が上がる … 所得税や法人税では納税しないような方々からも税金が取れるため。
●相続税が上がる … お金をあまり使わない高齢者から、消費活動の活発な若年層に富を移動させるため。
相続税に関して言えば、すでに伝説となりつつあるバブル期時代、最高税率は70%でした。最近は、最高税率が50%まで下がっておりましたが、平成25年度税制改正により55%に上がっております。将来的には、再び最高税率70%の時代が来ると予測している人もいるほどです。こうなると、相続税制度のない東南アジアの国々へ移住したくなる人々も出てくるというものです。
さて、相続対策の基本ですが、王道は「現金を不動産に変える」ことだと言われております。これには融資を受けて不動産を購入することも含まれます。なぜなら、現金で持ち続けた場合、相続発生時には100%評価で課税されますが、不動産の場合は相続発生時に固定資産税評価額等で評価されるのが一般的であり、それが実際の購入額の70%ほどであるケースが多いからです(その他、小規模宅地の特例や借地借家権割合のメリットなどがありますが別の記事で掲載します)。
この相続財産の評価でうっかりすると落とし穴に嵌りやすいのは、会社を経営しているオーナー社長が自身の会社に対して貸付金を有している場合、逆に言えば会社のB/S(貸借対照表)において社長に対する「個人借入金」が計上されている場合です。
経費の領収書を会社の帳簿に付けてもその精算金を社長が受け取っていなかったり、一時的に会社に資金を注入したまま忘れていたり、税務調査による修正申告の結果個人借入金が計上されたり、いくつかの理由で会社のB/Sに社長に対する借入金が計上される場合があります。しかし、オーナー社長自身が「会社にお金を貸している」という自覚がないため、そのまま放置されがちであります。この「会社に対する貸付金」が、現金と同じく相続上は100%評価となるため、気付かないうちに相続財産がとんでもない金額になっていた、という状況になりかねないのです。
この対策としては、DES(デット・エクイティ・スワップ)を行い、貸付金を株式に変換するという手法があります。貸付金であれば100%評価となってしまいますが、非上場会社の株式となれば、株式の評価の際に類似業種比準方式を採用するなどの手法により、評価額が下げやすくなるのです。ただし、資本金が1億円を超過すると外形標準課税が課せられたり、交際費が全額損金不算入となったり、いろいろ税制上不利な面もありますので、減資と併用することも考えられますが、処理に手間がかかります。
別の対策としては、やはり会社が経営者に対し、役員報酬ではなく借入金の返済、という形で資金を振り込んでいくことです。会社に余分に利益が計上されるとどうしても役員報酬や退職金という形で支払いたくなるものですが、法人税の実効税率は高くても35%ほどですので、相続税の最高税率が将来的に70%になると仮定すると、それよりは納税額は断然低いことになります。また借入金の返済であれば、経営者に所得税が課せられないメリットもあります。
ある程度規模の大きい法人を経営されていらっしゃる方が役員報酬を設定する場合、法人税率と所得税率のバランス(住民税も含む)を検討したり、給与所得として受け取る金額と退職所得として受け取る金額のバランス(退職所得の方が納税額が少額になるため)について検討することになりますが、合わせて会社の「個人借入金」が相続財産に「化けた」際の相続税率についても注意しなければいけませんので、気を付けましょう。
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