2013年05月08日

B/Sの「社長借入金」が「相続財産」に変貌する!


 以前の記事でも取り上げましたが、先日行われた平成25年度税制改正により、平成27年より発生する相続については基礎控除額が下げられることとなりました。以前は「大金持ち」の話であった相続税の話も、今後は「小金持ち」クラスでも気にしなければいけなくなってくる傾向にあります。業界の見方ですが、今後「法人税は下がるが、所得税・消費税・相続税は上がる」と言われております。

●法人税が下がる … 企業を活性化するためには、他国に比較して上げるわけにはいかない。

●所得税が上がる … 累進課税なので、金持ちからは多めに税金を取るため。

●消費税が上がる … 所得税や法人税では納税しないような方々からも税金が取れるため。

●相続税が上がる … お金をあまり使わない高齢者から、消費活動の活発な若年層に富を移動させるため。

 相続税に関して言えば、すでに伝説となりつつあるバブル期時代、最高税率は70%でした。最近は、最高税率が50%まで下がっておりましたが、平成25年度税制改正により55%に上がっております。将来的には、再び最高税率70%の時代が来ると予測している人もいるほどです。こうなると、相続税制度のない東南アジアの国々へ移住したくなる人々も出てくるというものです。

 さて、相続対策の基本ですが、王道は「現金を不動産に変える」ことだと言われております。これには融資を受けて不動産を購入することも含まれます。なぜなら、現金で持ち続けた場合、相続発生時には100%評価で課税されますが、不動産の場合は相続発生時に固定資産税評価額等で評価されるのが一般的であり、それが実際の購入額の70%ほどであるケースが多いからです(その他、小規模宅地の特例や借地借家権割合のメリットなどがありますが別の記事で掲載します)。

 この相続財産の評価でうっかりすると落とし穴に嵌りやすいのは、会社を経営しているオーナー社長が自身の会社に対して貸付金を有している場合、逆に言えば会社のB/S(貸借対照表)において社長に対する「個人借入金」が計上されている場合です。

 経費の領収書を会社の帳簿に付けてもその精算金を社長が受け取っていなかったり、一時的に会社に資金を注入したまま忘れていたり、税務調査による修正申告の結果個人借入金が計上されたり、いくつかの理由で会社のB/Sに社長に対する借入金が計上される場合があります。しかし、オーナー社長自身が「会社にお金を貸している」という自覚がないため、そのまま放置されがちであります。この「会社に対する貸付金」が、現金と同じく相続上は100%評価となるため、気付かないうちに相続財産がとんでもない金額になっていた、という状況になりかねないのです。

 この対策としては、DES(デット・エクイティ・スワップ)を行い、貸付金を株式に変換するという手法があります。貸付金であれば100%評価となってしまいますが、非上場会社の株式となれば、株式の評価の際に類似業種比準方式を採用するなどの手法により、評価額が下げやすくなるのです。ただし、資本金が1億円を超過すると外形標準課税が課せられたり、交際費が全額損金不算入となったり、いろいろ税制上不利な面もありますので、減資と併用することも考えられますが、処理に手間がかかります。

 別の対策としては、やはり会社が経営者に対し、役員報酬ではなく借入金の返済、という形で資金を振り込んでいくことです。会社に余分に利益が計上されるとどうしても役員報酬や退職金という形で支払いたくなるものですが、法人税の実効税率は高くても35%ほどですので、相続税の最高税率が将来的に70%になると仮定すると、それよりは納税額は断然低いことになります。また借入金の返済であれば、経営者に所得税が課せられないメリットもあります。
 
 ある程度規模の大きい法人を経営されていらっしゃる方が役員報酬を設定する場合、法人税率と所得税率のバランス(住民税も含む)を検討したり、給与所得として受け取る金額と退職所得として受け取る金額のバランス(退職所得の方が納税額が少額になるため)について検討することになりますが、合わせて会社の「個人借入金」が相続財産に「化けた」際の相続税率についても注意しなければいけませんので、気を付けましょう。


 
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2013年04月16日

信託を利用して相続税を大幅圧縮


 今回は、相続対策で信託を活用するスキームについてご紹介いたします。これは、大手の信託会社ではなく、小回りの利く中小の信託会社さんにご提案いただいているスキームです。

 まず、順調に業況が伸びており、毎年自社株の評価額が上昇することが見込まれる非公開のオーナー会社「A社」があるとします。A社の現オーナーは、このまま手をこまねいていると、毎年自社株の評価額が上がってしまい、将来的に相続が発生した際は大変なことになってしまう、という認識はお持ちです。しかし、自社株の評価額を下げるために、故意に会社を赤字にするのもさすがに躊躇われる、とも思っております。つまり、自社株の評価額は下げたいが、会社の業況は順調に伸ばし続けたい、というニーズです。それでは、今のうちに代表を引退して贈与等の手法で子供に自社株を渡してしまうのが一番いいのかというと、引退してまったく収入がなくなるのも困る、せめて配当収入は確保したい、と考えております。子供が夜の街で浪費するかもしれないので、配当収入までは渡さずに、経営権だけ譲渡することができないか、と。
 この、相続税の圧縮をしたいというニーズ、また、経営権と配当を受け取る権利を分離して事業承継をスムーズにしたいというニーズ、を総合的に解決に導く手法の一つに、「信託」を利用するスキームがあります。

@ まず、信託会社と信託契約を締結し、自社(A社)株を「信託」します。
A 引退する親は、配当を受け取る権利(収益受益権)を受け取ります。
B 会社を引き継ぐ子は、議決権を行使する権利(元本受益権)を受け取ります。

 以上により、信託会社への信託報酬は発生するものの、配当を受け取る権利と会社を経営する権利の分離は完成です。
 信託スキームを使う利点は、ここで、同時に相続税の節税対策が可能になるということです。
税法上は、この信託スキームを組んだ時点で、子に「元本受益権」部分が「贈与」されたとみなされます。また、親が他界したときは、「収益受益権」部分に「相続」が発生したものとみなされます。
 ポイントは、この「元本受益権」と「収益受益権」の評価額です。
 
 財産評価基本通達202(3)において、元本受益者と収益受益者が異なる場合の信託受益権の評価方法が定められております。それによりますと、まず、子の受け取る元本受益権については、以下のように定められております。

「イ 元本を受益する場合は、この通達に定めるところにより評価した課税時期における信託財産の価額から、ロにより評価した収益受益者に帰属する信託の利益を受ける権利の価額を控除した価額」
 → つまり、子が受け取る元本受益権=信託された財産の評価額−親の収益受益権ということです。

 結局、問題となるのは親の「収益受益権」の評価額ということになりますが、これについては以下のように定められております。

「ロ 収益を受益する場合は、課税時期の現況において推算した受益者が将来受けるべき利益の価額ごとに課税時期からそれぞれの受益の時期までの期間に応ずる基準年利率による複利現価率を乗じて計算した金額の合計額」
 → これだけではよくわかりませんね。別の言い方をすれば「将来的に得られる収益を現在の価値に割り引いて評価する」ということです。

 例えば非常に単純な前提として、信託した自社株式の金額は1億円、毎年1000万円の配当が受け取れ、信託期間は10年に設定するものと仮定します。
 複利現価率に基づく詳しい計算過程は割愛しますが、例えば、親の収益受益権は、信託設定当初は、1000万円の配当を10年間受け取れる権利なので、ほぼ1000万円×10年=1億円に近い数字で評価されます。利率の部分が割り引かれ、結局94,790,000円となります。
これが信託期間が終了する10年後には、配当を受け取る権利は1回分しかないので、1000万円に近い数字、8,620,000円と評価されます。10回目の配当も終了したら、ポンカスで、評価額はゼロ円です。
 さらに財産評価基本通達に基づく裏返しの計算で、子の元本受益権の価値は、以下のようになります。
1年目:100,000,000円 − 94,790,000円 = 5,210,000円
10年目:100,000,000円 − 8,620,000円 = 91,380,000円

 すなわち、極端な例ではありますが、信託を組んだ際の子へのみなし贈与額はわずか5,210,000円であり、これに課せられる税額も、1億円を贈与する場合に比較して非常に低いものになります。そして、タイミングよく(と言っては語弊がありますが)10年目に相続が発生したとすると、相続の対象額はわずか8,620,000円となっており、すなわち、当初の贈与財産、相続発生時の相続財産も非常に低額のまま、1億円の株式の譲渡が完成するのです。
 
 また、相続が発生しないまま信託期間満了となった場合ですが、元本受益者である子供に信託財産の名義を変更することとなり、無事株式の移譲も完成します。ここでは特に課税関係は発生しません。
 考え方としては、定期借地権の権利関係も分離型信託の権利関係も同じような権利評価の推移をしますので定期借地権契約で併せて考えるとわかりやすいかもしれません。
 例えば、定期借地権契約では契約当初は借地権者と底地権者に権利関係が分かれますが、定期借地権者が分離型信託の収益受益者に、底地権者が分離型信託の元本受益権者に相当します。定期借地権の契約満了時に定期借地権者の権利がゼロになり底地権者に100%の権利が帰属するように、信託契約の場合は収益受益権者の権利がゼロになり、元本受益者に100%の権利が帰属します。

 もちろん、相続が5年目に発生すれば、5年目の親の収益受益権の評価額となります。また、3年以内に相続が発生した場合は、贈与財産はみなし相続財産と認定されるので、節税効果は少なくなります。ただし、相続の発生タイミングがうまくいけば、非常に節税効果が得られる手法となります。
 元本受益者(今回の場合は子)は10年もの間、何も経済価値を享受できない財産を受け取ることとなりますが、その一方で元本受益者として元本が値下がりする、すなわち「元本割れ」のリスクだけは負っているということで、財産評価基本通達上、信託契約時には低い価値になるという建付けになっているのです。

 この魔法のようなスキームは、対象となる財産の将来的な値上がりの確率が高いほど効果を発揮します。逆に財産から収益が生まれない、もしくは「元本割れ」が起こった場合は、信託報酬だけが掛け捨てになってしまいますので、どの財産を対象に実行すべきかは、慎重に検討する必要があります。

  
参考になるサイト
国税庁:財産評価基本通達
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka/01.htm


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posted by ふみふみ at 17:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 相続対策と事業承継 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする