2013年07月24日

相続対策の基本セオリー ~ 現預金を不動産に換える効果は絶大!


 よく「相続対策で不動産を購入した」とか「相続対策で賃貸用のアパートを建設した」ということを耳します。今回の記事では、なぜ不動産を購入することが相続対策になるのか、という基本的な論点を解説していきたいと思います。
 

 結論から言ってしまえば、不動産を購入することにより、相続税法上の財産評価額を下げることができるからです。
 例えば、現預金で5億円を持っていたら、そのまま5億円という財産評価額となります。
 ここで、簡略化のため、相続財産はこの5億円のみ、相続人は子供が2名のみであるケースを想定しましょう(配偶者はすで死亡しており、いわゆる2次相続の事例とします)。
 なお、この相続は、相続税率や基礎控除の金額が変更される平成27年以降に発生するものとします。

 まず、現預金で5億円を保有していたまま相続が発生した場合の、相続税の納税額は以下のようになります。

課税遺産総額:相続財産5億円−基礎控除3000万円−法定相続人2名×600万円=4億5800万円
法定相続人が子供2名なので、課税遺産総額を2分の1ずつに分割すると、
子供一人当たりの納税額: 課税遺産総額4億5800万円×1/2×相続税率45%−控除額2700万円=7605万円
∴相続人全体の納税額は、7605万円×2名=1億5210万円
となります。

 次に、この5億円の現預金により賃貸用不動産を購入し、建物2億5000万円、土地2億5000万円を取得した場合の相続税を計算してみます。

 まず、建物の評価額ですが、固定資産税評価額がそのまま相続税の評価額となります。通常の場合、建物の固定資産税評価額は取得価額の6割ぐらいになりますが、賃貸用の建物の場合さらに約3割カットで評価されるので、実際の取得価額の30%から40%ぐらいにまで減額効果が得られます。
 したがって、この時点で2億5000万円で取得した建物の相続時の評価額は1億円ぐらいまで評価を減額することができます。
 さらに、借家人の入っている賃貸アパートは、評価計算のうえで「借家権」を差し引くことができます(一律30%を控除)。
 結局、賃貸用の建物の評価額は、1億円×(1−30%)=7000万円ほどまで評価を下げることができます。単純な仮定ではありますが、現預金で財産を保有していた時に比較して、72%減、すなわち28%まで評価額を下げることができました。

 次に土地の評価ですが、こちらは市街地については路線価方式、それ以外の地域については倍率方式(固定資産税評価額×倍率)により評価されます。路線価で評価した場合、一般的には実際の流通時価の8掛けぐらいの評価になる傾向があります。
 従いまして、単純に現預金を土地に換えただけでも2億5000万円×80%=2億円 まで評価額が下がります。
 さらに、この土地の上に賃貸用の建物がある場合は「貸家建付地」という扱いになり、「借地権割合×借家権割合」の控除が可能となります。例えば、借地権割合が60%の地域であった場合は、最終的に2億円×(1−(60%×30%))=1億6400万円まで評価を下げることが可能です。

 以上より、建物と土地の相続税評価額の合計は、7000万円+1億6400万円=2億3400万円となります。これに課税される相続税は、以下のように計算されます。

課税遺産総額:相続財産2億3400万円−基礎控除3000万円−法定相続人2名×600万円=1億9200万円
子供一人当たりの納税額: 課税遺産総額1億9200万円×1/2×相続税率30%−控除額700万円=2180万円
∴相続人全体の納税額は、2180万円×2名=4360万円
となります。

 つまり、現預金で5億円保有していた場合に、1億5210万円だった納税額が、同額の不動産に換えただけで、4360万円まで減少し、1億850万円も節税ができたのです。約71%以上の減額効果です。
 単純なモデルケースではありますが、これが相続対策の王道と言える、現預金を不動産に換えた場合の効果です。

【留意点】
 不動産を購入することはいいことばかりでなく、当然リスクもつきものです。例えばなかなか満室にならない賃貸物件を所有してしまうと、それ自身が重荷になってしまいます。すでに土地を保有している場合であっても、その土地が賃貸物件を建築するに適していないようであれば、その土地を売却して別の土地を購入したうえで賃貸物件を建築する、などの複合技も検討する必要があります。
 全国的に少子化が進んでいるため、空室率が徐々に上がる傾向がすでに始まっております。そのような環境下においては、不動産の購入や建築業者の選定にはよく吟味する時間が必要であります。それゆえ相続対策は、発生間際で慌てるのではなく、事前にしっかりと計画性をもって動く必要があります。
 また、販売業者の営業担当による資金計画の説明では、税引前のキャッシュフローでしか説明を受けられないことがほとんどです(所得税の累進課税は、各個人によって税率が変わってしまうため)。例えば、所得の高い方が、さらに個人で不動産所得を発生させてしまうと、50%以上の最高税率で課税がなされてしまうため、かなりのキャッシュアウトが発生してしまいます。賃貸用物件を所有する場合は、税引後のキャッシュフローをシミュレーションしたうえで、購入するようにしましょう。
 高い買い物なので、安易に「ババ」を弾かないように、よくよく勉強してから臨みましょう。
 
 

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2013年06月26日

相続対策における生命保険の活用


 現預金や上場株式などで資産を所有している状況で相続が発生した場合、例えば1億円のものは1億円という、100%の評価で相続財産が計算されてしまいます。 また、企業オーナーで法人に貸付金がある場合や、第三者に個人的に貸付けを行っている場合の「貸付金」も100%の金額で相続財産としての評価を受けてしまいます。
 したがいまして相続対策の王道としては、相続が発生する前に、可能な限り上記のような100%評価を受けてしまう資産を、評価を下げることができたり非課税枠のある他の資産に逃がしておくことが有効になります。
 資産を不動産に代えることにより評価額を下げるのはその代表的な例の一つですが(固定資産税評価額や路線価が使用されるため)、今回の記事ではもう一つのシンプルな対策例である生命保険の活用をテーマにしたいと思います。これは非課税枠を利用するやり方になります。

 生命保険が相続対策として一般的に活用される主な理由は、下記の通りです。

@ 非課税枠の存在
 とあるオーナー企業の社長が死亡して相続が発生したと仮定します。この場合、社長は「被相続人」と呼ばれ、妻子は「相続人」と呼ばれます。社長は、生前生命保険に加入して保険料を支払っていました。死亡により、生命保険は妻子が受け取ることになりますが、生命保険の受取金については、500万円×法定相続人数だけ、相続税が非課税となります。つまり、生命保険の掛け金と受取金がほぼニアリーイコールだと仮定した場合、ただ現預金で資産を持ち続けているよりも、生命保険に加入して「簿外資産」を作っておいて、それを相続発生時に相続人が受け取る仕組みにしておいたほうが、有利だということになります。

A 受取人が指定できるメリット
 保険契約の場合、その受取人を契約者である「被相続人」の意思で選択することが可能です。生前における資産の分割を事実上行う効果があるため、相続発生時のトラブル発生の防止に役立ちます。

B 納税資金の確保
 相続財産が、不動産や非上場会社の株式であった場合、なかなか換金できません。生命保険が入ってくるとそれを納税資金に充当できますし、余剰があれば生活資金にもなります。

 以上は、被相続人が個人的に生命保険に加入する場合ですが、オーナー社長の場合、会社で生命保険に加入し、

 社長が死亡 → 会社に保険金入金 → 死亡退職金として妻子に支給

という流れを作ることも可能です。
 相続人が死亡退職金を受け取る場合も、500万円×法定相続人数だけ、相続税が非課税となります。

 なお、保険加入のデメリットとしては、簿外資産を作る行為であるため、一時的に資金が社外流出することが挙げられます。
 会社の業績が好調な時に節税対策で保険に加入したものの、業況が傾いた時に保険を解約する羽目になり、結局単純に損してしまう、という結果に陥る可能性も否定はできません。保険に加入する際は、会社の業況が思わしくなくなった場合にも支払いを継続できるかどうか、という資金計画も考えたうえで加入されることをお勧めいたします。
 世の中には保険の掛け金と受取保険金がほぼ同額の保険商品が多くありますが、上記の節税メリットのほか、保険の本来の趣旨である「不慮の事故があった場合の備え」というメリットも考えると、保険そのもので利潤が生まれないとしても、加入したほうがよいという結論は導き出せます。

 
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