2013年06月28日

自宅を購入する際の名義で節税対策


 今回の記事では、経営者の方が自宅を購入する際に、節税上どのように購入すべきなのかについて考察したいと思います。会社が軌道に乗ってくると、経営者の受け取る役員報酬も増えてくるので、ご自宅の住み替えを検討されるケースがよく見受けられます。通常の給与所得者であれば、住宅ローンの縛りもあるので、建物も土地も個人所有になることがほとんどでしょう。ただし、収入の高い経営者の場合は、現金で購入するかローンで購入するか、また、法人で所有するか個人で所有するか、について選択の幅が広く、最も有利な方法を検討することが可能になります。

 まず、結論から言えば、

・土地は個人で所有
・建物は法人で所有

が基本路線になります。ただし、決してこれが「正解」とは言えません。
 以下、その理由を解説いたします。

● 土地は個人で所有したほうが有利
 → 小規模宅地の特例を活用するため
(解説)
 日本の相続税法の規定によりますと、被相続人(相続の際に死去される方)と同居している相続人が、その居住していた宅地等を相続する際は、240uまでの範囲において、評価額が80%減額されます(平成27年からは330uまでに拡大)。これは、相続が発生する都度、家族が住み慣れた自宅を処分するような状況に陥らないようにするための、税法上の配慮によるものであり、この宅地のことを「特定居住用宅地等」と言います。なお、被相続人と同居していない相続人については、保護する必要がないので適用されません。
 この240uという面積は全国一律ですので、特に東京都心部のように土地価額が高い地域であるほど有利に作用することになります。もし、法人で土地を所有した場合は、相続する財産としては法人株式となるため、この80%減額のメリットは享受できなくなります。法人株式が類似業種比準方式などの適用により上手く低額で評価できればよいのですが、やはり80%減額のメリットは大きいと言えます。

 ただし、ここで一つ留意点があります。この「特定居住用宅地等」の上に存在する建物が、同じく被相続人個人の所有であれば何も問題がありません。ただし、建物部分が「法人名義」である場合は、どうなるのでしょうか。

 以下は、「租税特別措置法(相続税法の特例関係)69の4−7」の条文です。
---------------------------------------------------------------------
(被相続人等の居住の用に供されていた宅地等の範囲)
69の4−7 措置法第69条の4第1項に規定する被相続人等の居住の用に供されていた宅地等とは、被相続人等の居住の用に供されていた家屋で、被相続人が所有していたもの又は被相続人の親族が所有していたものの敷地の用に供されていた宅地等をいうものとする
---------------------------------------------------------------------
 つまり、家屋(建物)を法人所有にしてしまうと宅地も「居住用」とはみなされなくなってしまい、80%減額の適用はできないということです。

 ただし、その場合であっても、個人が所有する宅地を法人に賃貸していることになるので、個人が賃料収入を受け取ることにより、「貸付事業用の宅地等」という分類での小規模宅地の特例の適用を受けることは可能です。この場合は、200uまでの広さに限り、50%まで相続発生時の評価額を減額することができます。

● 建物は法人で所有したほうが有利か?
 → 経費を付けやすくする、支払家賃の設定を低めに抑えられるなどにより、法人税や経営者の所得税の負担を抑える。

 上記の小規模宅地等の特例に関する考察により、

・建物も個人名義にすることにより相続発生時の宅地等の評価は80%減額
・建物を法人名義にすることにより相続発生時の宅地等の評価は50%減額

 ということがわかりました。建物を法人で所有させてた場合、法人税その他の節税効果で、このハンディを挽回できるのでしょうか。

 建物を法人名義にした場合に、建物に関する保険、減価償却、維持修繕費などを法人の経費に算入することが可能となります。ここが、個人所有の場合と大きく違うところです。そして、経営者個人に対しては、土地部分の地代の支払いを行い、逆に建物部分の家賃を個人から徴収することになります。

・土地の地代については、固定資産税の2.5〜3倍程度が相場です。

・建物部分の家賃収入については、「役員社宅」としての取り扱いとなり、所得税法基本通達において計算方法が定められておりますが、概して世間の相場よりは低めに設定できるケースが多いようです。

(詳しい算定方法は、過去の記事「役員社宅について」をご参照ください。建物の規模によりケースバイケースです。)

 建物部分の家賃を低めに設定できたと仮定した場合、個人でローンを組んだ場合に比較して、法人に支払う家賃を低めにできる可能性があります。もしそうであれば、その額だけ役員報酬を減らせば、源泉税(所得税)の負担を減らすこともできるわけです。

 以上より、建物を法人所有にした場合、

・日常の運用としては、法人税や経営者の所得税の負担を減らす効果が期待できる。
・ただし、相続の発生時は、小規模宅地の特例の適用上は不利に働く。

 ということになり、果たしてどちらが有利なのかについては、取得する物件次第によって詳細なシミュレーションをしないと判断がつきにくいかもしれません。

【留意点】
● 個人と法人間で借地権の認定を受けないようにするため、「無償返還届出書」を税務署に提出する必要があります。これを行わないと、借地権の贈与があったものとみなされてしまいます。
 なお、この届け出を提出することにより、経営者個人が所有している土地の評価額が20%減額でき、その20%部分は建物所有法人に移転します。したがって、法人の株式の相続対策などがある程度進んでいるのであれば、相続上有利に働きます。

● 全ての購入額を現金で用意できない場合は、建物部分を法人のコーポレートローンで組むことになるので、個人のように30年の返済期間は設定できない可能性があります。また利率も、個人の住宅ローンの利率よりは不利になる可能性があります。結局この理由により、建物も土地も個人所有とする方も多いようです。


<<< 「節税ノウハウ」の記事一覧 へ戻る

   <<< 「ブログの目次」 へ戻る





------------------ 以下、SEESAA BLOG 広告 ------------------

2012年11月24日

逆ハーフタックスプラン


 クライアント様のご依頼により、逆ハーフタックスプランについて最近検討しております。今回の記事はその点について。

 まず「ハーフタックス」と呼ばれている保険商品があります。こちらは、一般的な養老保険のプランで、従業員全員が加入することを前提として、死亡保険金の受取人は遺族、満期返戻金の受取金を法人とする場合です。この場合の会計処理ですが、死亡保険金として遺族に支給される確率と法人が満期返戻金を受け取る確率を50:50と考えて、支払保険料のうち、50%は損金算入、50%は資産計上となります。

 一方で「逆ハーフタックス」は、同じく養老保険を使用したスキームなのですが、死亡保険の受取人を法人とし、満期返戻金の受取人を被保険者個人とするプランです。満期返戻金を被保険者個人に支給ため、実質会社の資金を個人の資金に委譲できるのが売りの商品です。
 この場合の会計処理は、支払保険料のうち50%は会社が負担する保険料、他の50%は個人が負担すべき保険料を会社が肩代わりしている、つなわち加入者への給与とみなします。そういう意味では100%損金算入と言えなくもないですが、給与部分には所得税が発生しますので、所得の高い方が加入しますと、累進税率最高額で給与相当額の約50%の納税義務が発生してしまいます。

 また、満期返戻金の受取時は、一時所得と考えます。
満期返戻金−2分の1役員報酬部分の支払総額−特別控除(最高50万円)=一時所得
 一時所得の2分の1が、総合課税で給与所得等に合算

 結局、お客様のケースでシミュレーションした結果、形式上の節税はあるものの、支払った保険料よりは満期返戻金の額が大概は少ないので、キャッシュフローとしては、それほど影響がありませんでした。この商品のメリットは、最終的に儲かるかどうかではなく、やはり会社の資金を個人の資金に委譲できるという点にありますが、逆ハーフタックスプランの一時所得での申告方法が争われた平成24年1月の最高裁判決が逆ハーフタックスプランそのものを否定していないことから、税務上は合法になったとして販売に力を入れ始めた保険会社もあるようです。
 それでは、この保険商品は大いに推奨されるものでしょうか。やはりケースバイケースと言えるでしょう。例えば、会社の資金を個人の資金に委譲する行為は、経営者の取るべき行動としては決して褒められたものではないでしょうから、従業員に対する見せ方も考えなければいけません。従業員の心証を悪くしそうであれば、冒険はせずに通常の退職金積立プランの保険に加入して、将来的には退職金として普通にもらうことでもいいのではないかと個人的には考えております。

<<< 「節税ノウハウ」の記事一覧 へ戻る

   <<< 「ブログの目次」 へ戻る