平成28年12月8日付で、平成29年度税制改正大綱が公表されました。今回特に注目されていたのは配偶者控除の改正とタックスヘイブン対策税制の強化でした。今回の記事では、このうちタックスヘイブン対策税制の改正内容について見ていきたいと思います。
従来は、日本の内国法人もしくは日本居住者の外国子会社株式所有割合が直接・間接含めて50%以下であれば、形式的にタックスヘイブンの所得合算課税からは除外されていました。なので、たとえペーパーカンパニー的な投資会社であっても、50%の株式を現地の第三者に所有してもらえば、合算課税を逃れることが出来たのです。
ただし、平成29年度税制大綱では以下のような記述が追加されております。
「A居住者又は内国法人と外国法人との間にその居住者又は内国法人がその外国法人の残余財産のおおむね全部を請求することが出来る等の関係がある場合におけるその外国法人を外国関係会社の範囲に加えるとともに、その居住者又は内国法人を本税制による合算課税の対象となるものに加える」
⇒ この文章からは、資本関係のないSPC等であっても実質的な支配が認められるのであれば合算課税の対象にする、という税務当局の意図がうかがえます。
また、以下のような記述もあります。
「国税当局の当該職員が内国法人にその外国関係会社が経済活動基準を満たすことを明らかにする書類等の提出等を求めた場合において、期限までにその提出等がないときは、その外国関係会社は経済活動基準を満たさないものと推定する。」
⇒ これは、外国関係会社に活動実体があることを表す書類を納税者側が速やかに提出できない場合、税務当局は証明責任を負わずして、ペーパーカンパニーと推定することが認められるということです。
また、新たに以下の規定が設けられ、タックスヘイブンの合算課税の対象が広げられることになりました。
(1)ペーパーカンパニー
以下のいずれも満たさない場合は、ペーパーカンパニーと認定されて、タックスヘイブン合算課税の対象となります。
(イ)主たる事業を行うに必要と認められる事務所等の固定施設を有している。
(ロ)本店所在地国において事業の管理、支配及び運営を自ら行っている。
(ハ)課税当局が上記を証明する書類の提出を求めた場合に速やかに提出する。
⇒ ただし、以上の要件は、従来のタックスヘイブン合算課税の適用除外基準とほぼ同じと言えます。
(2)事実上のキャッシュボックス
総資産の額に対する有価証券、貸付金、無形固定資産等の合計額の割合が50%を超え、かつ、総資産の額に対する「受動的所得」(部分課税の対象となるもの)の割合が30%超える法人
⇒ この規定が今回の改定の目玉と言えます。投資用の法人がこの基準をクリアーするためには、新たな方策が必要になります。
(3)「ブラックリスト国」所在法人
租税に関する情報の交換に非協力的な国又は地域として財務大臣が指定する国又は地域に本店等を有する外国関係会社
⇒ なお、2009年のOECD報告でブラックリストに掲載されていたシンガポールは、2015年では除外されており、「G7諸国並みに税の透明性と情報交換に関して基準を満たす国・地域」に含まれております。
以上の会社は、本店のある外国の租税負担割合が30%未満であれば、タックスヘイブンの合算課税の対象となります。従来のタックスヘイブン対策税制においては、租税負担割合が一律20%未満の国又は地域が対象でしたが、この規定により対象範囲が拡大されたことになります。
以上の他、部分課税の適用についても改正がありましたが、それについては別記事で検証したいと思います。
なお、法律の適用時期は平成30年4月1日以後から開始される外国関係会社の事業年度となります。
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