2013年11月06日

上場会社のストックオプション ~ 基本的な仕組み


 
 ストック・オプションという言葉をよく耳にされると思います。簡単に言ってしまうと、インセンティブ目的で「ただ同然で会社の株式をもらえる」制度であると認識されているかと思われます。しかし実際には、この制度は月給以外の労働の対価を現金ではなく株式で役職員に支給する仕組みです。
 さらに言えば、現金で支給される賞与よりも非常に白黒がはっきりしており、企業の業績が低迷するなどして株価が上がらない場合は役職員には一切利得がなくなってしまうので、役職員は株式価値を上げるために日々会社に貢献することが期待されます(実際には特に意識なく仕事に邁進されている方が多いようですが)。

 ストック・オプションは、上場会社で発行される場合と非上場会社で発行される場合とで、付与の方法、活用方法、行使価額の算定方法などがいろいろ違ってきます。今回の記事では上場会社で発行する場合の基本的な仕組みについて解説したいと思います。

 上場会社の場合、すでに株式の時価が市場で形成されているので、株価を評価するということはあまりありませんが、ストック・オプションを発行する場合には、その「新株予約権」の価値を評価する必要が出てきます。
 なぜなら、現行の会計基準においては、ストック・オプションは、役員や従業員等に対する「労働の対価」(コール・オプション)であり、上場会社はこの報酬に相当する部分を、人件費として損益計算書上に計上しなければいけないからです。

 具体的には、ストック・オプションの発行日から、権利行使が可能となる日までの期間、つまり権利行使ができない期間(勤務対象期間)の人件費と考え、その期間に応じて段階的に以下の仕訳を起票します。

<X1年度期首>
 【借】 勤務費用(損益計算書)
         【貸】 新株予約権(純資産の部) 100

 この仕訳は、以下の2本の取引から成り立ってます。

@【借】 勤務費用(損益計算書)  【貸】 現預金 100
 → 会社が労働対価を役職員に支払い

A【借】 現預金  【貸】 新株予約権(純資産の部) 100
 → 役職員は受け取った労働対価を原資に、有償でストック・オプションを購入

 次に、2年経過後にストック・オプションの権利行使が可能であるものとします(つまり労働の対価としての対象期間はこの2年間)。
 例えば、上記の例だと、毎年100ずつ新株予約権が蓄積されるので、2年後は200まで蓄積されております。この新株予約権が、付与された株式を1000で購入する権利であるものとします。
 そして、権利行使可能となった現時点において、会社の株価が1000よりも高くなっていれば、権利を行使して現物の株を持つメリットがあります。

<X2年度期末:権利行使された時の会社の仕訳> 
 【借】新株予約権(純資産の部) 200
 【借】現預金(払込金の残金)  800 
                【貸】 資本金 1000

 会社は、権利行使して新規に株式を発行するので、実質「増資」です。
 一方で、役職員個人の方は、800の現金を拠出するだけで、1000の株を購入できます。差額の200は過去2年間の労働の対価で支払済と理解します。この労働の対価としての「200」をストック・オプション付与時に算定することが、「ストック・オプションの評価」であり、この「200」のことをストック・オプションの「公正価値」と言います。
 公正価値を算定評価する際は、「公正価値」=「本源的価値」+「時間的価値」と考えて、ブラックショールズや二項モデルと言われる方式により算定されるのが一般的です。

 役職員個人としては、この労働の対価としての評価額の大小によって、権利行使時に払い込む残金が変わってきます(ストック・オプションの評価が高いほど、払込金額が少なくて済む)。一方で、会社側は、ストック・オプションの評価が高いと、労働対価として損益計算書に計上すべき費用が大きくなってしまい、しかも権利行使時の払込金額が少なくなってしまいます。
 したがって、両者の利益は相反してしまうので、「公正な評価額」を算出する必要があるのです。

【付与パターン】
 ストック・オプションは、付与するときに権利行使価格を決めてしまいます。なので権利行使が可能な時期を迎えたとしても、その時の市場の株価が権利行使価格よりも低くなってしまっていた場合は、わざわざ権利行使によって割高な株式を取得する理由はなく、意味がありません。この特性を利用すると、利用パターンも以下のようにいくつか応用を利かせることができます。

@ 業績連動型ストック・オプション
 権利行使可能までの期間を長めに設定し(3年〜5年)、権利行使価額を現在の株価以上に設定します。つまり、会社の業績をその間に向上させて、会社の株価が権利行使価額(目標株価)に到達させないと、報酬としての価値が生まれないストック・オプションになります。

A 株式報酬型ストック・オプション
 最近多くの上場企業が、退職慰労金制度を廃止して、その代替として1円ストック・オプションを取締役に付与するケースが散見されます。行使価額を1円に設定するので権利行使価額が株価を下回ることはなく、権利行使時の追加の払込がほとんどないので、そっくりボーナス(もしくは退職金)としての効果があります。
会社の株価を上昇させられるほど、もらえる金額が大きくなるという仕組みです。

B 有償ストック・オプション
 「ただで会社の株式をもらえる」のではなく、ストック・オプション発行時に評価された「新株予約権の公正価値」を付与対象者が払い込むため、会社は損益計算書での勤務費用の計上は必要なくなります。勤務対象期間の労働の対価としての株式を得るわけではなく、付与対象者には先行的な資金拠出が伴います(それゆえ、可能な限り公正価値が低めに評価できる状況であることが重要になります)。
 権利行使が可能になった時点において、将来の株価から権利行使価額を控除した差益が新株予約権の発行時に拠出した金額を上回っていれば、その差額のみが役職員の得られる利益となります。
 会社にとっては、もちろん勤務費用の計上が回避できることがメリットであり、付与対象者個人にとっては最初に現金を拠出することになる、デメリットはあるものの、権利行使時に給与所得として課税もされなくなるため、税務対策としては有効に機能する場合があります(ストック・オプションの税務については別記事にて解説いたします)。

 上記以外にも、敵対的買収の防衛策としての発行、取引先との業務提携のための発行、全株主への株主優待のための発行、社外コンサルタント・研究者・暖簾分けオーナーへの付与など、様々な利用方法があります。


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