今回の記事は、合併の際に実務上必ず議論になる、合併後の資本勘定の決め方についてです。
資本金、資本剰余金、利益剰余金などの各勘定は、単純に考えれば、存続会社の従来の金額に、消滅会社(吸収される会社)の金額をそれぞれ加算されるように思われます。
しかし、実務上は必ずしもそうではありません。資本金が増加して1億円以上となった場合、外形標準課税の発生や留保金課税の発生など、いろいろ税務上は不利な面があるので、税務だけの都合で考えるのであれば、資本金はできるだけ1億円以下にしたいところです。
基本的に、合併や会社分割などの組織再編は、「会社法」規定に従うことになります。具体的には、会社法第749条において合併契約を締結する際に定めなければならない事項が列挙されているのですが、その中で、合併に際して株式を交付する場合における「発行される株式数」、「株数の算定方法」、並びに「合併存続会社の資本金と資本準備金の額に関する事項」を定めることとなっております。
この資本金の額は、会社法の細則として定められた「会社計算規則」により、以下のように規定されております。
1.会社計算規則第35条第1項(変動する株主資本等の総額の決め方)
第一号:支配取得に該当する合併:
引継資産及び負債を「時価評価」することを基礎として算定
第二号:共通支配下における合併:
引継資産及び負債の「帳簿価額」を基礎として算定
第三号:上記以外の合併:
第二号に準拠
この「変動する株主資本等の総額」とは、簡単に言ってしまえば、合併により増加する純資産の金額のことです。
また「支配取得に該当する合併」とは、簡単に言ってしまえば、、第三者がオーナーであった会社を合併することにより、新たにその事業を獲得する場合です。この場合は、新たに取得する資産と負債を時価換算したうえで受け入れることになります。
その一方で、「共通支配下における合併」とは、子会社を吸収合併したり、子会社同士を合併させる場合です。この場合は、帳簿価額のままの引継で構わず、法人税の課税もないことになります。
なお、合併する会社がグループ外の会社なのか、グループ内の会社なのかで、税務上の扱いが大きく変わり、グループ外の会社を合併する際が特に注意しなければいけないのですが、その点については以前の記事「合併@:合併を実行する前に必ず検討しなければいけないこと」をご参照ください。「みなし配当課税」は要注意です。
2.会社計算規則第35条第2項(変動する株主資本等の総額の割り振り ~ 原則)
@ 変動する株主資本等の総額が零以上の場合:
合併契約書の定めに従い、資本金及び資本準備金を増加させ、利益剰余金は変動させない。
A 変動する株主資本等の総額が零未満の場合(債務超過の会社の合併):
その他資本剰余金の額を減少させ、それでも足りない場合はその他利益剰余金を減少させる。
@の場合(純資産がプラスの会社を合併する場合)、存続会社が消滅会社から受け入れる純資産の金額については、資本金と資本剰余金をどのように金額的に割り振るかについて、合併契約書で自由に決めることができます。例えば、営業政策的な問題で資本金をできるだけ大きく見せたいのであれば、資本金に金額を多めに割り振ればよいのですが、、資本金を増加させると合併登記の際に増加額の1000分の7の登録免許税が課せられます。また、税務上も中小企業の優遇税制や外形標準課税が、資本金1億円を境として取り扱いが変わるため、節税のためには資本金にはできるだけ金額を割り振らない方がよいことになります。
3.会社計算規則第36条(変動する株主資本等の総額の割り振り ~ 株主資本等を引き継ぐ場合)
合併の対価がすべて株式であり、適切と判断される場合は、消滅会社の資本金、資本剰余金、利益剰余金の額を、そのまま存続会社に引き継ぐことができる。
前述の第35条第2項のAの規定により、債務超過の会社を合併(いわゆる無対価合併)する場合は、原則存続会社の資本金は増価させません。ただし、この第36条の規定により、「適切と判断される場合」は資本金の額を増やすことを選択することができます。
なお、上場企業の場合は、「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」第185項に基づき会計処理をすることになりますが、会社計算規則とほぼ同一の内容が記載されております。
また、税務申告書上の処理は、上記のどの割り振り方を採用したとしても、消滅会社の資本金及び資本剰余金の額を存続会社の「資本金等」として受け入れて別表五(一)に記載することになります。
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