最近、円安が進んだことにより、クロスボーダーの投資環境が一変しました。アベノミクスが始まる前は、円高であることを背景に、日本企業が外国企業を買収したり、日本の資産家が海外の不動産を物色するケースが多かったのですが、アベノミクス後は一気に円安となったため、外国人が日本国内の資産への投資を物色する動きが出てきました。為替の理由のほか、今日本の不動産や株式に投資しておけば将来的に値上がりするのではないか、という期待も背景にあるようです。
先日、ある斡旋業の方から、「外国人に国内不動産を所有してもらった場合に、将来的に相続が発生するのか」とご質問を受けましたので、今回の記事は、その点について解説したいと思います。
結論から言えば、外国人といえども、日本国内の財産を所有した場合は、その国内財産に限り相続税の課税対象となります。これは、その外国人が日本に居住しているかどうかに関係はありません。
たとえば、外国に居住している外国人が死去し、外国に居住している妻子が相続した場合であっても、またその外国に相続税の制度が存在しなかったとしても、日本国内の財産については日本における相続税の課税対象となります。
これを相続税法上は、「制限納税義務者」と言います(相続税法第1条の3第三号)。また、この「制限納税義務者」の規定は贈与の場合にも適用されます(相続税法第1条の4第三号)。
なお余談ではありますが、日本国籍を有する被相続人と相続人がともに外国で生活し5年以上非居住者になっている場合、相続税は免れると思っている人が多いようですが、この場合も「制限納税義務者」に引っかかってしまいますので、日本国内にある財産だけは、相続税の課税対象となってしまいます。
今回私がご質問を受けた事象は外国人が日本の不動産に投資するケースでしたが、上記の話は不動産に限らず株式などすべての国内財産に当てはまります。もし外国人が日本国内資産への長期的な投資を検討するのであれば、将来的な相続税の発生も想定したうえで、購入を検討する必要があります。
その際の、相続税の計算過程ですが、日本と同様に適用が受けられるものは以下の通りです。
● 相続時精算課税制度の適用は受けられます。
● 相続の課税対象となった国内財産の抵当権等で担保されている債務については相続財産の計算から控除することが可能です。
● 相続計算の際の通常の基礎控除は受けられます。
● 配偶者の相続税額の軽減は受けられます。
● 小規模宅地等の特例は受けられます。
その一方で、
● 未成年者控除は受けられません。
● 障害者控除は受けられません。
● 外国税額控除は受けられません。
以上は、アメリカとの間で締結された租税条約がベースとなっておりますが、その他の諸外国とも、基本的に同じ考え方が適用されるようです。
なお、この制限納税義務者の相続財産を評価する際にも財産評価基本通達の規定が適用されるので、不動産の場合は実際の購入価額よりも割安の評価額となりますし、非上場株式については類似業種比準方式の適用が可能であれば、純資産よりも低い価額で評価される余地はあります。なので、それなりに高額の投資でない限りは、外国人の個人レベルの投資案件に対して相続税が課せられるのはレアケースでしょう。
外国人の方に国内資産の購入をお勧めする場合は、その投資規模から考えて相続税の心配をしなくてもよいかどうかだけ、 事前に確認しておきましょう。
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