2012年12月18日

個人支配のシンガポール法人はタックスヘイブン税制の適用除外となるか


 さる平成24年10月11日、東京地裁で興味深い一つの判決がございました。個人が出資して設立したシンガポール法人にタックスヘイブン対策税制あるかどうかを争われた事案です。もし、このシンガポール法人にタックスヘイブン税制の適用があると認定されてしまっては、このシンガポール法人の利益が、日本に居住する個人の雑所得として追徴課税を受けてしまうので、大変なことになります。

 ある日本国内の精密部品製造会社役員が、個人で出資を行い、部品販売会社をシンガポールに設立しました(99%をその役員が保有し、残りの1%を現地人が保有)。この会社が、タックスヘイブン対策税制を除外するための要件、「実体基準」と「管理支配基準」のいずれも満たしているか否かが争点となりました。
 
 税務当局は、以下のように主張しました。
@ シンガポール法人にはオフィス機器しかなく、事務所等の賃貸借契約もしておらず、財務諸表に賃貸料の計上もないため、「実体基準」を満たさない。
A シンガポール法人の株主総会議事録は、シンガポールで1%の現地株主が出席、99%の日本株主が委任状提出という形で作成されている。議事録上、株主総会が現地で開催された形式をとっていても、実際の意思決定は日本にいる99%株主の役員が行ったものと判断できるので、「管理支配基準」も満たさない。

 一方で、納税者は以下のように主張しました。
@ シンガポール法人は受注発注形態の小規模卸売業者であるため、大所帯の事務所は必要ない。当該シンガポール法人の事業支援を別の現地法人に委託しており、その現地法人とは業務委託契約を締結している。その現地法人のオフィス内に机1台分のスペースを借り、賃借料は業務委託料に含めて支払っている。したがって、シンガポール法人は「実体基準」を満たすものと考える。
A シンガポール法人の株主総会がシンガポール法人の会社法に則って同地で開催されている以上、「管理支配基準」を充足している。

【東京地裁の判断】
 東京地裁は、納税者の主張を認容し、所得税の更正処分及び過少申告加算税の不可決定処分を取り消しました。理由は以下の通りです。

@「実体基準」について
 物的側面から独立企業として実体があるかどうか判断する基準であり、その充足要件として、事務所等の所有が必ずしも求められるものではなく、賃借の規模についてもその業種・業態により判断すべきである。本件では、シンガポール法人と現地業務委託先との業務委託契約が正確に記載されていない可能性が高い上、当時はシンガポールで子会社設立支援サービスが開始されたばかりで、サービス対価を定めた上で業務委託報酬を算定する方式になっていなかったことなどからすると、シンガポール法人の支払う業務委託料には賃借料も含まれていたと解釈して差し支えない。また、シンガポール法人が小規模な卸売業者であることに照らすと、机1台分のレンタルオフィススペース等はその卸売業を行うに当たり十分な規模であり、結果、「実体基準」は充足していると言える。

A「管理支配基準」について
 機能的側面から独立企業としての実体があるか否かを判断する基準であり、その充足のためには、従業員等が存在し、かつ、親会社から独立した意思決定が行われていること等を勘案する必要がある。この従業員等については、親会社以外の第三者から派遣を受けている場合でも差支えなく、今回の事案は現地業務委託先法人から営業担当者が派遣され、その営業担当者はシンガポール法人の指揮監督を受けているため、従業員は存在していたと認められる。また、シンガポール法人の株主総会は、シンガポールで招集開催されており、1名の現地株主が参加している以上、株主総会は同地で行われたものと認められる。結果、シンガポール法人は、「管理支配基準」も満たしている。税務当局は、大株主である役員個人の所在地を過度に重視し、大株主の所在地と株主総会の開催とを混同した主張を行っているが、その主張は採用できない。

 本事案は、東京高裁に控訴されましたが、2013年5月29日に税務当局の控訴は棄却され、判決が確定いたしました。この判決においては、業務委託先の現地での依頼業務をきちんと説明できたこと、外国現地法人の議事録などをきちんと整備していたことも、納税者側が勝利する一つの要因となったようです。国際税務に携わる者としては、非常に意義のある判決と言えます。


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posted by ふみふみ at 13:42| Comment(1) | 国際税務を武器にする時代です | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
海外現地法人を利用した、法人税、所得税の減税策について教えて下さい。
スカイプかチャットでの質問は受け付けていらっしゃいますか。
メールにてご連絡頂くことは可能でしょうか。
Posted by 垣田真矢 at 2013年06月26日 19:53
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