さて、今回の記事では、「会社分割」について、より詳しく考察していきたいと思います。会社分割に関する本は巷に沢山出版されておりますが、
・「吸収分割」と「新設分割」の2種類がある。
・「人的分割」と「物的分割」の2種類がある。
という話が必ず出てきます。まずはそこから。
【吸収分割と新設分割】
まず、会社分割とは、分割元の会社が持っている事業の一部を、外部に切り分けることを言います。この時、外部に切り分けた事業が新しい法人として設立されると「新設分割」となります。一方、外部に切り分けた事業が他の法人の一部として譲り受けられることを「吸収分割」と言います(他法人に切り分けた事業が吸収される)。
吸収分割は事業譲渡とほぼ同じ効果を得つつ、事業譲渡の欠点を補った制度として成立しました。事業譲渡は、その事業に係わるすべての契約を個別に巻き直す必要があることが欠点ですが、吸収分割は、官報公告を出すことによって、包括的に事業が譲り手に引き継がれる制度ですでの、その点のメリットがあるといえます。ただし、もしその事業に「隠れ債務」のある可能性があった場合、包括的に隠れ債務まで引き継いでしまうこと、また、法的には事業譲渡の方が手続きが簡便的であることから、現在でも事業譲渡を選択する
ケースは多々あります。
一方で新設分割についてですが、新設分割の制度ができる前は、まず子会社を設立してその後に事業譲渡をするという形がとられておりました。新設分割の制度が整備されたことにより、その法的手続きによって、子会社の設立と事業譲渡が同時にできることになったわけです。これは一瞬便利になったように感じられますが、実務上のテクニックとしては、新設分割を利用するよりは、まず空の子会社を設立して、その後に「吸収分割」の手続きにより事業を移管する方がいいと言われています。なぜなら、新設分割の場合、新会社の設立があったものと法的に認められるのが、すべての手続きが終了して登記が完了してからです。公告期間などを考えると、2カ月前後を要することになるため、それまで銀行口座開設をすることができません。一方で、先んじて空の子会社を設立しておけば、すぐに銀行口座を開設でき、同時並行的に会社分割の手続きを行っていけばよいのです。会社分割が行われると、分割された事業の売掛金の入金口座が変わることになるため、新規の振込口座は早めに開設できたほうがよいのです。
【人的分割と物的分割】
まず、人的分割というのはほとんどお目にかかったことがありません。世の中のほとんどの会社分割は物的分割と言ってよいと思います。
物的分割は、事業の一部を切り出した際に、切り出し元の会社が、切り出した事業の対価として切り出し先の会社の発行する会社の株式等を取得する形式をとります。 新設分割の場合であれば、新設子会社の株式を取得し、吸収分割であれば、事業を吸収してくれた会社の新たに発行する株式を取得することになります。実務上は、この形がほとんどです。
その一方で、人的分割というのは、事業を切り出すことにより、切り出し元の株主が、切り出し元の会社の株式と切り出し先の会社の株式の両方を持つようになるやり方です。
会社法が整備されてからは、物的分割を前提に条文が組み立てられ、人的分割は、物的分割の一部とみなされるようになりました。すなわち、まず物的分割が行われて切り出し元の会社が、切り出し先の会社の株式を取得すると当時に、その株式の「現物」を株主に「現物配当」することにより、人的分割と同じ効果が得られるという建付けにしたのです(会社法763条)。
次回の記事では、会社分割の際の注意点等、ご紹介していきたいと思います。
<<<「組織再編をもっと身近で活用しましょう」の記事一覧 へ戻る
<<< 「ブログの目次」 へ戻る