クライアントの社長様と資産形成についてのお話をさせていただくにあたり、まずは自分自身がいろいろな投資にチャレンジして実戦経験を積まないことには、実体験に基づいたお話ができないと思い至りまして、お付き合いのある不動産業者様などに、収益物件のご紹介をお願いしております。サラリーマン大家さんが流行した数年前は出物も一杯あり、利回りも取れる物件が多かったようですが、現在は、少し出物が少ないようです。高い買い物なので、焦りは禁物。慎重に検討しております。
さて、アパマン収益物件を購入する際には、まずは以下の点を検討することになるでしょう。
● 賃貸収入(レントロール)
稼働率が90%の場合、80%の場合でもローン返済が可能か
家賃の下落率を年0.5%程度に見るか、年1%程度に見るか
近隣工場頼み、学校頼みの物件か(将来の閉鎖の可能性)
ライバル物件の家賃と勧められた物件の家賃の比較
● 管理諸経費
管理会社への手数料、入退去時の原状回復費用、固定資産税、
募集のための広告料、水道光熱費、清掃料、保守料など
紹介業者様から物件の資金計画を提示される場合、必ず上記賃貸収入-管理諸経費=賃貸利益という前提のもとで説明を受けます。この賃貸利益からローンの元利返済額を控除して、差引手残りがいくらです、とか、純投資利回りはこれだけ出ます、と言う具合です。
ただし、これだけで投資判断をしてしまうと痛い目を見ます。以上の話には、不動産所得を確定申告した際の所得税、及びそれに伴う住民税のお話が、「ごっそり」抜けているからです。
注意しなければいけないのは、不動産所得の計算方法です。
まず、紹介業者様から提示される「手残り」は、賃貸収入−管理諸経費−元利返済額として説明されます。
例えば、賃貸収入が月50万円、管理諸経費が月10万円、ローンの元利返済額が30万円だとしたら、
50万円−10万円−30万円=10万円が手残りですよ、といった具合です。
ただし、確定申告において不動産所得を計算する際に費用と認められるのは、元利返済のうち「利息部分」のみです。元本返済部分は、支出ではありますが借りたものを返しているだけであって、「費用」ではないのです。例えば、皆さんが人から1万円を借りて、それを後で返したとしても、その返した金額は何ら損を伴うものではないので、費用ではないという解釈です。
元本が費用とならない代わりに、「減価償却」が費用として認められます。ただし減価償却は価値が劣化する「建物」にしか認められません。「土地」は価値が下がらないので減価償却の対象外です。中古の物件などは、建物部分の価値がそもそも少ないので、減価償却が多額には取れない場合がありますし、また都心部などの物件は、建物に比較して土地の価額割合が高いので、減価償却の割合はどうしても少なくなってしまいます。
たとえば、上記の元利返済30万円のうち元本返済部分が18万円、利息部分が12万円だとします。また、認められる減価償却の金額は月当たり8万円だとします。
そうなると不動産所得(月当たり)は、以下のようになります。
賃貸収入50万円−管理諸経費10万円−利息部分12万円−減価償却費8万円=20万円
(実際は所得税は年額で考えますが、ここは分かり易く月額で考えることにします。)
さて、この20万円に所得税の累進課税で税金がかかるのですが、例えば、収益物件を買うほどの富裕層で、所得税の実効税率(所得税+住民税)が50%に達している方の場合だと、20万円の50%で10万円が税金で持って行かれることになります。
なので、上記の例のように税金を考慮する前の段階で「手残り10万円」という話の場合は、税引後で考えると、
手残り10万円−不動産所得税・住民税10万円=0円
という結果になってしまいます。
これが「不動産投資の落とし穴:その1」です。
さらに「不動産投資の落とし穴:その2」があります。元利均等返済の場合、返済額のうち最初は利息部分の占める割合が高いのですが、ローン期間の後半になればなるほど、元本部分の占める割合が高くなり、利息部分はほとんどなくなっていきます。
また、減価償却が、ローン期間の終了以前に終了してしまうケースもあります(例えば、耐用年数22年を経過した木造を取得した場合、中古耐用年数は4年)。
このような状況になると、不動産所得に関する税金がかなり高額になり、しかも家賃の下落等により家賃収入は年を追うごとに減少してきますので、ローンの返済もままならない状況になります。
不動産業界の人は、元本返済部分と減価償却費の計上額が逆転する瞬間を「デッド・クロス」と呼んでいます。ローンを使って物件を所有した場合、概ね12年目〜15年目頃にデッド・クロスは発生します。それゆえ、10年ぐらいを目途に物件を売りに出し、新規の資産に入れ替えるケースが多いようです。長年持っていると大規模修繕などが発生するリスクが高まるので、特にRCなどは、購入する時点ですでに手放す時のことを想定しておかなければいけません。
不動産投資をする際は、税引前キャッシュ・フローではなく、税引後キャッシュ・フローで考える習慣を付けましょう。
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