今までの記事でご案内したとおり、国際税務の場合「恒久的施設なければ課税せず」という租税条約の大原則があります。しかし、芸能人やスポーツ選手の所得や芸能プロダクションのような事業法人を通じて得られる所得に関しては、この原則の「例外」と言われておりますので、注意が必要です。
例えば、一般的な租税条約の教科書となるOECDモデル条約では、第14条自由職業所得条項及び第15条給与所得条項があるにも関わらず芸能人として行う個人的活動によって取得する所得に対しては、芸能人等が芸能活動を行った国、すなわち役務提供地国において第一次の課税権を与えております(第17条第1項)。これは、シンガポールと日本との租税条約におきましても、同様に規定されております。
また海外でも活動する芸能人やスポーツ選手が事務所等に所属しており、個人的活動の所得がそれらの事務所等に帰属する場合であっても、第7条事業所得条項、第14条及び第15条の規定を適用せず、芸能人等が芸能活動を行った地域、役務提供地国に第一次の課税権を与えております(第17条第2項)。
芸能人等の職業の方々は、世界のどこの国でも活動が可能なため、居住地国の税務当局がその活動の全貌を把握するのは困難を極めるのが実情です。それゆえ、一番活動実態を把握しやすい役務提供地国において課税することができるようにしているのです。たとえ、芸能人等が海外の芸能活動で発生した所得を隠すために個人芸能プロダクションを設立し、そのペーパーカンパニーの事業活動として芸能活動を行ったとしても、第17条第2項の規定が設けられているため、課税からは逃れられないのです。
このような取り決めがあるため、海外で芸能活動を行った場合、基本的にギャラ(報酬)から源泉税が天引きされます。それは個人が受け取る場合でも事務所が受け取る場合でも一緒です。通常は、源泉税率は20%とお考え下さい。この源泉税は、日本国内での確定申告で還付できる可能性があるので、きちんと確定申告しましょう!
【芸能人等の範囲:所得税法基本通達161−10の3】
・映画若しくは演劇の俳優、音楽家、声楽家等の芸能人
・プロボクサー、プロレスラー等職業運動家
・職業運動家にはアマチュア・ノンプロであっても役務提供により報酬を受け取る場合を含みます
・職業運動家には、陸上競技などの選手に限られず、騎手、レーサーのほか、大会などで競技する囲碁、チェス等の競技者等が含まれます
参考になるサイト
国税庁:http://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/gensen/aramashi2007/mokuji/10/01.htm
<<<「国際税務を武器にする時代です」の記事一覧 へ戻る
<<< 「ブログの目次」 へ戻る