2012年11月02日

高値で自己株式を買い取ってしまうとみなし配当課税!

 
 会社の株式を取締役や従業員に付与しているときに、たまに退職者が出て株式の買い取りを依頼されるケースがあります。この場合、代表者自らが買い取れればよいのですが、代表者個人に資金的な余裕がなく、株式を発行する会社自らが取得するケースも少なからず見受けられます。会社が、自身の発行する株式を買い取った場合、これを「自己株式」と呼びます。
 この自己株式の取得は、上記のようなやむにやまれぬ理由で取得する場合もあれば、下記の理由で積極的に取得した方がメリットのあるケースもございます。

【自己株式取得のメリット】
@ 1株当たり財務指標の改善
 例えば、「1株当たり当期純利益」という財務指標がありますが、これは発行済株式総数から自己株式数を控除した株数を分母として計算するため、特に上場会社などでは市場に流通する株式数を減少させることにより当期純利益が増加し、株価の向上を期待できます。「1株当たり純資産」でも同様の効果が得られます。

A ストックオプションへの活用
 ストックオプションは、役員や従業員に対して、報酬や給料の代わりに会社の新株予約権を付与する制度ですが、将来業績が向上し株価が上昇したときに、付与者が新株予約権を行使すれば、その値上がり益を獲得することができます。自己株式を保有しておくと、役員や従業員からストックオプションの権利行使があったときに、わざわざ新株を発行する必要がなく、費用も節減できます。

B 敵対的買収に対する防衛
 上場会社の場合、大株主や連携先が何らかの理由で株式を手放すこととなったとき、市場での流通量が増えることにより株価が下落し、買収されやすくなります。一時的に会社が自己株式を取得することにより、敵対的買収を防ぐ効果が期待できます。

C 合併や会社分割などの企業再編への活用
 株式を対価とする企業組織再編を行う際に、新株発行に代えて自己株式を割り当てることで、効率的な組織再編の実現が可能となります。

D 中小企業での相続対策
 非上場会社が株式の相続を受けた人から自己株式を取得する場合で一定の要件を充たすものは、後述する「みなし配当」による配当所得の総合課税が免除され、株式売買による譲渡益(分離)課税のみで納税することが可能になります。これは、相続人が株式を発行元に売却した際の納税負担を軽減することにより、相続税の支払い資金に充てることができるようにするための制度です(租税特別措置法9条の7)。

【自己株式の会計処理】
 自己株式の取得は、株主総会の決議等所定の手続きを経れば、原則として会社の自由に行うことができるとされています。取得した自己株式の会計処理は、その取得原価をもって「純資産の部」の株主資本から控除し、期末に保有する自己株式は、一括して純資産の部の株主資本の末尾に控除する形式で表示します。なお、税務処理では、自己株式は有価証券として取り扱われてきましたが、平成18年の税制改正で、資本金等の額の控除項目とすると明確に定義されました。取得対価の額のうち、取得株式に対応した資本金等の額(取得資本金額)だけ資本金等の額を減額し、その金額を超える部分の金額については、利益積立金額を減額することとされました。

【自己株式の譲渡が行われた際の課税】
 発行法人が有償により自己株式を取得した場合には、その金額の多寡によりまして、株式を譲渡した株主には、みなし配当と株式譲渡損益が生じ、発行法人においては、みなし配当の額に相当する金額が源泉徴収の対象となりますので、注意が必要です(法人税法第24条、所得税法第25条)。源泉税率は20%になります。

 まず、以下の算式により、自己株式を取得した際の「取得資本金額」を算出します。これは「資本の払戻しの額」ということもできます。

取得資本金額=取得法人のその自己株式の取得直前の資本金等の額÷取得直前の発行済株式の総数×その自己株式の取得に係る株式の数
(注)取得資本金額の計算上は、発行済株式の数から、既に有している自己株式の数を除いて計算します。

次に、
● 発行体が旧株主に交付した金銭等の額が、上記算式により算出した取得資本金額に満たない場合は、実際に交付した金銭等の額を取得資本金額とみなして資本金等の額を減少させます。このケースは、売却した旧株主は税務上「損して当初より安値で資本の払い戻しを受けている」とみなされ、自己株式を取得した発行体は「当初の発行時より安値で資本を払い戻した」とみなされるので、売却した旧株主は損をしていることになり「みなし配当課税」も発生しません。

● 逆に、発行体が旧株主に交付した金銭等の額が取得資本金額を超える場合には、その超える部分の金額だけ発行法人の利益積立金を減少させます。

減少する利益積立金額=交付金銭等の合計額−取得資本金額

 この減少させる利益積立金額は、発行体からすれば「発行した当初よりも高値で自己株式を取得したための利益剰余金からの持ち出し」で、利益を配当したのと同じ効果と考えます。それに連動して、旧株主においては「配当を受け取ったもの」とみなされて配当所得課税がなされます。これが「みなし配当」と呼ばれる制度です。

 【事例】
(前提)
自己株式取得直前の取得法人の純資産の部
(会計上)                 (税務上)
資本金           100         資本金等       200
その他資本剰余金   100         利益積立金   1,000
利益剰余金     1,000            合計     1,200
      合計     1,200

@ 発行済み株式総数は10株
A 株主より1株100で自己株式を取得

<会計上の仕訳>
自己株式    100   現金預金    84(※4)
                  預り金     16(※3)

<税務上の仕訳>
資本金等     20(※1)   現金預金    84(※4)
利益積立金    80(※2)    預り金     16(※3)

※1 減少する資本金等
    資本金等 200÷10株×1株=20(取得資本金額)
※2 減少する利益積立金
    交付金銭 100−取得資本金額20=80=みなし配当
※3 預り金(みなし配当源泉税)
    みなし配当80×20%=16
※4 現預金
    自己株式取得代金100−みなし配当源泉税16=差引支払額84

<税務調整仕訳>
資本金等     20   自己株式    100
利益積立金    80   

 この場合の自己株式の取得は、会計上、資本取引となるため、会計上の損益に影響はなく、税務上も所得計算の過程には影響しません。

 一方、株式を譲渡した旧株主の税務ですが、ちょっと複雑でありまして、「株式の譲渡対価−資本の払戻しの額」はみなし配当課税の対象となり、「資本の払戻しの額−帳簿価額」は株式譲渡損益として課税の対象となります。

【法人株主と個人株主との相違】
● 個人株主の場合には、「みなし配当」とされた金額は、配当所得として総合課税の対象となります。
 課税総所得金額と配当所得の金額に応じた配当控除(税額控除)があります。

● 法人株主の場合には、原則として受取配当金の益金不算入制度の適用があります。ただし、この制度を租税回避行為として利用し、「株式の譲渡対価−資本の払戻しの額」の部分はみなし配当課税=益金不算入とし、「資本の払戻しの額−帳簿価額」の部分は株式譲渡損失とすることにより、実質納税をしない取引として利用されるケースが散見されたため、平成22年税制改正により、「法人株主が自己株式の譲渡を事前に予定した上で、発行会社株式を取得し、その後自己株式を譲渡した場合には、みなし配当額の全額が益金算入される」こととなりました。

【グループ法人税制における自己株式の処理】
 100%企業グループ内の自己株式取引は以下のように規定されることとなりました。
@ みなし配当金額の全額益金不算入
A 有価証券譲渡損益の不計上(譲渡損益を資本金等の増減で処理)
B 寄付金、受増益の全額損金・益金不算入により、時価よりも低額・高額で自己株式の取得・処分を行った場合、発行会社は寄付金が不計上となり、法人株主は受増益不計上となります。


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