2016年12月28日

タックスヘイブン合算課税の強化についてA


 今回は、平成28年12月8日に公表された平成29年度税制改正大綱によるタックスヘイブン課税強化についての2回目で、「部分合算課税」について見ていきたいと思います。

 まず、平成22年の税制改正により、外国関係会社がタックスヘイブンの適用除外要件を満たす場合であっても、以下の資産性所得については、内国法人の持分割合に応じて、日本の親会社の法人所得に合算して課税されることになっております。これを「部分合算課税」と言います。

1. 剰余金の配当(株式の受取配当金)
2. 債券利子
3. 債券の償還益
4. 株式等の譲渡所得
5. 債券の譲渡所得
6. 使用料(ロイヤリティ)
7. 船舶・航空機リース

 投資用の法人をタックスヘイブンに設立して、形式上の事業実体を持たせたとしても、これらの受動的な収入については、結局タックスヘイブン課税を受けてしまうのです。ただし、部分課税の適用を免れる要件がいくつかありますので、それを今回の平成29年税制改正とあわせてみていきたいと思います。 

まず、以下の場合は、部分合算課税の適用対象とはなりません。

・外国関係会社の租税負担割合(実効税率)が20%以上である場合
→ 平成29年度の税制改正により、ペーパーカンパニー、事実上のキャッシュボックス、ブラックリスト所在国の外国法人については、所在国の租税負担割合が30%の国・地域までタックスヘイブン課税が拡大されてしまいましたが、部分合算課税につきましては、所在国の税負担割合が20%未満の国・地域、という現行規定のままです。

・部分合算課税の対象となる所得額が1000万円以下の場合
→ 平成29年度税制改正により2000万円に引き上げられます。少額の資産性所得であれば、課税を免れます。

 また、対象となる資産性所得ごとに、以下のとおり部分合算課税から免れる条件が規定されております。

1.剰余金の配当(株式の受取配当金)
 現状の税制では、外国関係会社が所有する株式の所有割合が10%未満のものであれば、投資先より配当を受け取った場合は部分課税の対象になってしまいます。逆に言えば、10%以上の持分を所有している法人から配当を受け取っても部分課税の対象にはならないということです。持分割合の判定は、配当基準日、すなわち、「配当等の支払いに係る効力が生じる日」となりますが、配当支払い法人の所在国に別の法令が存在する場合は、配当の額が確定した日となります。

⇒ 平成29年度税制改正大綱により、部分課税の適用される持分割合が10%→25%に引き上げられました。したがいまして、所有割合が25%未満の投資先からの配当を受け取りがある外国関係会社については、年間でこの所得が2000万円を超えないかどうかに留意する必要があります。

2.債券利子
 外国関係会社が、社債など債券の利子を取得している場合は、その受取利子から対応する支払利子を控除した差額について部分合算課税の対象となります。

⇒ 平成29年度税制改正大綱により、以下は部分合算課税の対象から除外されることが明記されました。
(イ)外国関係会社の関連者に対する貸付金の利子
(ただし、本店所在地で、役員・使用人が業務遂行のため従事していることが要件)
(ロ)上記(イ)の関連者が、(イ)の要件を満たす外国関係会社に貸付を行う場合の受取利子
(ハ)貸金業を営む外国関係会社の受取利子
(二)預金利子
 したがいまして、外国関係会社が関連者以外の者に貸付を行う場合は、その所得が2000万円を超えないかどうか、等に留意する必要があります。

3.債券の償還差益
 2.と同様に部分合算課税の対象となります。

4.株式等の譲渡所得
 1.の場合と同様で、現状の税制では持分割合が10%未満の株式を売却した場合は、部分合算課税の対象となります。10%以上の持分であれば、課税を免れることが出来ます。

⇒ 平成29年度税制改正大綱により、部分合算課税の適用される持分割合が10%→25%に引き上げられました。したがいまして、所有割合が25%未満の投資先からの配当金については、年間で所得が2000万円を超えないかどうか留意する必要があります(切り売りするなどの工夫が必要)。

5.債券の譲渡所得
 2.3.と同様に部分合算課税の対象となります。

6.使用料(ロイヤリティ)
 外国関係会社が、特許料、著作権料等を得る場合は、収入から減価償却費など直接費用を控除した差額が、部分合算課税の対象となります。

⇒ ただし、平成29年度の税制改正により、外国関係会社が自ら開発したもの、自ら取得したもの、自ら対価を支払っているものについては、除外されることが明記されました。

7.船舶・航空機リース
 外国関係会社が受領する船舶・航空機の貸付対価は部分合算課税の対象となります。償却費の扱いは、6.と同様です。

 また、平成29年度税制改正大綱により、以下の規定が追加されました。

・デリバティブ損益取引 ⇒ 部分合算課税の適用は除外される

・外国為替差損益 ⇒ 部分合算課税の適用は除外される

8.有形固定資産の貸付対価
 ただし、以下の場合は、部分合算課税の対象から除外されます。
@ 外国関係会社の本店所在地で使用される有形固定資産等の貸付対価
A 外国関係会社の本店所在地で役員または使用人が不動産貸付業にすべて従事する場合の有形固定資産等の貸付対価

⇒ 平成29年度税制改正大綱により、不動産賃貸収入の部分合算課税制度が新たに追加されました。ただし、所在国そのものに存在する賃貸不動産を所有する場合、及び不動産貸付業の専業者を雇用する場合は、除外されます。例えば、シンガポールの法人の場合、シンガポール国内の不動産を所有するのはかなり厳しい選択なので、専業者を現地に送り込む、などの対応が必要になります。

9.無形資産等の譲渡損益
⇒ 平成29年度の税制改正により新たに設けられましたが、6.と同様に外国関係会社が自ら開発したもの、自ら取得したもの、自ら対価を支払っているものについては、除外されます。
 
 以上が概要ですが、平成29年度税制改正による新基準の適用は、平成30年4月1日以後から開始される外国関係会社の事業年度となりますので、それまでに何らかの対策が必要になります。


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2016年12月21日

簡易課税を選択する際の注意点


 個人事業を行う際でも、法人を設立した際でも、年間の(課税)売上高が1000万円を超える場合は、国に消費税を納めなければなりません。概略は、以下のような仕組みです。

@ 皆さんが売上をお客様に請求する際に、皆さんが受け取るべき売上に8%の税金を追加して請求します。そうして入金した金額のうち、加算した8%部分は本来お客様が国に納めるべき税金(消費税)を国に代わって回収しただけであり、これは一時的な「預り金」となります(貸借対照表における表示は仮受消費税等)。

A 皆さんが仕入先や取引業者に仕入代金、固定資産、諸経費等の支払いを行う際には、皆さんが支払うべき代金に8%の税金が追加されて請求されます。そうして支払った金額のうち、加算されていた8%部分は本来皆さんが国に納めるべき税金(消費税)を取引先が代理で回収したにすぎません。これは一時的な「預け金」となります(貸借対照表における表示は仮払消費税等)。

B 決算日後2カ月以内に消費税の確定申告を行い、「預り金」から「預け金」を控除した差額を税務署に納付します。

 この仕組みによると、事業が普通に回っているのであれば、預り金の方が預け金より大きくなる傾向にあります。なぜなら、支払いをする経費には、消費税8%が加算されない性質のものが多々あるからです。主なものは、給与賃金、法定福利費などの人件費ですが、保険料や支払利息にも消費税は加算されません。
 預金口座に貯まっている現預金の一部は、この納付に充当すべき「預り金」であります。勘違いして資金繰りに投入してしまうと、後で消費税が納付できない、という事態が起きかねないので、要注意です。
 なお、期中に借り入れを起こして多額の設備投資を行うなど、大きな買い物を行うと、預り金より預け金の方が大きくなり、確定申告の結果、「還付」になる場合もあります。いっぱい商品を仕入れたのに、ちょっとしか売れなかった、という場合も「還付」になりがちです。
 以上の消費税の基本的な枠組みは、「原則課税」と呼ばれております。その一方で、まだ事業規模が小さく、年商(課税売上高)が5000万円以下の場合は、事務負担の軽減される「簡易課税」の制度を選択することが出来ます。
 これは支払い側の消費税(預け金:仮払消費税等)の集計を省略し、売上高の消費税(預り金:仮受消費税等)のみを集計して、そのうちの●%を「みなし仕入率」として乗じることにより支払い側の消費税を簡便的に計算し、売上高の消費税との差額を納付する、というやり方です。
 前述のとおり、支払い側の取引については、消費税の加算されている支払いや加算されていない支払いが混在しておりますので、支払い側の消費税(預け金:仮払消費税等)の集計をするのは結構大変です。一方で、売上高の消費税(預り金:仮受消費税等)を算出するのは、売上高÷108×8という計算で単純に算出できる場合が多いので、納付すべき消費税の計算が楽なのです。なお、預り金:仮受消費税等に乗じるべき「みなし仕入率」は以下のとおり定められております。

 第一種事業(卸売業)90%
 第二種事業(小売業)80%
 第三種事業(製造業等)70%
 第四種事業(その他の事業)60%
 第五種事業(サービス業等)50%
 第六種事業(不動産業)40%

 卸売業や小売業は、会社の規模が小さくても売上高と仕入高が大きく膨らみ、売上高に占める人件費等の消費税のかからない支払いの割合が小さくなる傾向がありますので、みなし仕入率が高めに設定されております。その一方で、売上高に占める人件費等の占める割合が高い傾向にあるサービス業は、みなし仕入率が低めに設定されているのです。
 実際には、原則課税と簡易課税の計算結果双方をシミュレーション比較して、有利な方を選択することになります。届出は、設立初年度に限り決算日までに届出を行えばよいのですが、2年目以降は、期首が始まる前に届出を行わないと適用を受けられないので、有利不利は予想に頼らざるを得ません。なので、実際に消費税の確定申告をしてみると、間違った選択をしていた、というケースも多々発生します。
 
 簡易課税の選択をシミュレーションする際の注意点は、以下のとおりです。

1.簡易課税を選択すると「還付」という概念はなくなり、必ず「納付」になる。

 原則課税の場合は、支払い側の消費税(預け金:仮払消費税等)が、売上高の消費税(預り金:仮受消費税等)より大きい場合は、「還付」になります。ただし、簡易課税を選択してしまうと必ず売上高の消費税(預り金:仮受消費税等)の一定割合を納付するしかなくなります。なので、簡易課税を選択してしまった後に多額の設備投資を行ったり、売上高が大きく減少してしまうと、本来還付できたはずの消費税を納付する破目になる場合もあります。

2.口座貸しなどを行う場合

 例えば、社内にエンジニアを雇用するIT会社があったとします。発生する支出のほとんどが人件費であれば、簡易課税を選択して売上高の消費税(預り金:仮受消費税等)の50%を納付した方が有利ということになるので、簡易課税を選択したとします。
 その後、ITの世界ではよくある話なのですが、親しい同業他社から、大手企業に直接取引口座が開設できないので、すでに口座を開設している当社に取引の間に入ってほしい、と依頼されるケースがあります。いわゆる「口座貸し取引」です。そうなると帳簿上は、売上高と微々たる口座貸し手数料を差し引いた外注費が同時に計上されることになります。外注費は消費税が加算される支払なので、支払い側の消費税(預け金:仮払消費税等)が大きく増えることになります。
 これが非常に厄介であり、本来預り金と預け金のわずかな差額だけ納付すればよいはずにもかかわらず、簡易課税を選択してしまっていると売上高の消費税(預り金:仮受消費税等)の50%を納付しなければならなくなってしまいます。結果、受け取る口座貸し手数料よりも消費税の納付増加額の方が大きくなってしまう、という逆転現象が起きかねません。
 簡易課税を選択している会社は、口座貸し取引を依頼されても断った方が無難です。

3.2年間変更できない。
 簡易課税を一度届け出てしまうと、2年間は変更できません。
 原則課税と簡易課税のどちらが有利なのか、判断が微妙な場合は、あえて届出を出さない方が良いかもしれません。
 
 以上ですが、簡易課税を届け出る際は、事業の今後の展開など、よくよく見据えながら選択するようにいたしましょう。


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posted by ふみふみ at 10:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 起業・設立の豆知識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする