2014年10月15日

低廉譲渡を行った際の税務


 相続対策や企業の組織再編、M&Aなどを行う際に、オーナー企業の株式をいくらの評価額で譲渡するか、という問題に直面することがあります。

 一般的には、相続対策などのために株価鑑定を行う場合は、相続税法で定める「財産評価基本通達」にのっとり、会社の規模等に応じて類似業種比準方式、純資産方式、配当還元方式などを手法として使用します。一方、M&Aなどの株式のディールのために公正に株価鑑定を行う必要がある場合は、日本公認会計士協会の「経営研究著境研究報告第32号 企業価値評価ガイドライン」に基づき、DCF法などの収益還元法までも取り入れた評価を行うことになるかと存じます。

 今回の記事では、前者の「相続対策のために親が子供などに株式を譲渡する場合」を取り上げます。
 
 この場合、第三者とのディールではない親族間の異動であるため、取引株価はできるだけ安値にしたうえで譲渡したい、という心理が働きやすくなります。高値で売却をすることにより、売り主に多額の譲渡所得が発生することはできるだけ避けたいことでしょう。
 類似業種比準方式などは、比較的安い株価で算定できる傾向が強いのですが、それよりもさらに安い値段で譲渡を行ってしまった場合、「低廉譲渡」とみなされ、公正に評価した場合よりも低く取引した部分については、「贈与」もしくは「無償譲渡」があったものとみなされますので、注意が必要です。

 この低廉譲渡の際の税務上の対応は、当事者が個人か法人かによって、若干違ってまいりまして、以下の4つのケースが考えられます。

1.個人から個人への譲渡
2.個人から法人への譲渡
3.法人から個人への譲渡
4.法人から法人への譲渡

 以下、それぞれのケースについて考察していきたいと思います。

●個人から個人への譲渡
 よく、低廉譲渡と認定を受けた場合に、受贈者に贈与税が課せられるのは、「個人から個人への譲渡」の場合に限られます。
 まず、譲受人(買手)には、公正な価値で取引されたよりも低い金額で手に入れたと認められる、その差額の部分については、実質的な利益供与を受けたものとして「贈与税」がかかります。これは、相続税法第7条に規定される、いわゆる「みなし贈与」と呼ばれるものです。
 一方、譲渡人(売手)側においては、公正な値段で譲渡していたと仮定すると譲渡益が出ていたと認められたとしても、その発生していたであろう譲渡益に対して、譲渡所得税が課税されるわけではなく、実際の低廉譲渡による売却額から取得原価及び必要経費を差し引いた額に対してのみ、所得税が分離課税でかけられます。この取引が赤字取引の場合は、その赤字が切捨てになるという制限はありますが、他の譲渡所得との損益通算が必要な場面でない限り、それほど痛手ではないかもしれません(所得税法第59条第2項)。

 
●個人から法人への譲渡
 まず、買い手である法人についてですが、個人と違い法人には「贈与税」はかかりません。ただし、公正な価値で取引されたよりも低い金額で手に入れたと認められる、利益供与の部分については「受贈益」という特別利益があったものと認定されます。これが、法人税法第22条第2項でいう、いわゆる「みなし受贈益」というやつです。
 これは法人の利益と認定されますので、この認定により法人が黒字化した場合、また、黒字の法人が更に利益が増加した場合は、その利益に対して法人税率による課税がなされます。
 一方、譲渡人(売手)側において、公正な値段で譲渡していたと仮定すると譲渡益が出ていたと認められれば、その発生していたであろう譲渡益に対して、譲渡所得税が課税されます。これが所得税法第59条第1項に規定される、いわゆる「みなし譲渡益」というやつです。所得税法施行令169条により、おおよそ時価の2分の1未満の金額で取引された場合は「低廉譲渡」と認定され、売り手と買い手の両方が、追徴課税を受けることになります。
 さらに、法人が同族会社の場合はさらに厳しく、たとえ2分の1を割らない水準の低廉譲渡であったとしても、所得税法第157条にいう「同族会社等の行為又は計算の否認」を適用された場合は、みなし譲渡益として課税されます(所得税法基本通達59−3)。また、低廉譲渡により法人の株主が所有する株式価値が増加したということで、その株式価値の増加した部分についても、その株主に「贈与」があったものと認定されます(所得税基本通達9−2)。
 なので、個人から法人への低廉譲渡は、かなり厳しい結果になることが予想されます。

●法人から個人への譲渡
 まず、売り手である法人には、正規で売却したと仮定した場合の「みなし売却益」が認定され、さらに代金を受け取らなかった差額部分につき「寄付行為」を行ったものとみなされます。寄付金は原則、損金不算入なので、追徴課税を受けることになります。ただし、買い手である個人サイドが代表者や従業員の場合は、その寄附部分については寄附金ではなく「賞与」を支給したものと認定され、
 役員賞与 → 法人の経費としては損金不算入
 従業員賞与 → 法人の経費として損金算入可能
となり、さらに源泉徴収義務が本来あったということで、源泉所得税も追徴課税の対象となります。
 一方、買い手である個人についてですが、時価との差額分を安く手に入れたことにより利益供与を受けておりますので、その部分を「所得」として認定されます。
 役員・従業員の場合 → 給与所得
 上記以外の第三者の場合 → 一時所得

●法人から法人への譲渡
 売り手法人は「みなし売却益」課税を受け、買い手法人は「みなし受贈益」認定を受けます。両社とも、黒字化した、もしくは増加した利益に対して、法人税率による追徴課税を受けることになります。

 低廉譲渡は、以上のように法人か個人かによって税目は違うものの、ほとんどのケースで追徴課税を受けることになるので、避けるに越したことはないと思います。

 
 
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税制改正があっても実効税率は変わらない? 〜 平成26年10月より


 今回の記事は、上場会社の繰延税金資産の算定の際に留意する必要がある、法定実効税率についてです。安倍政権下の平成26年税制改正により、平成26年10月より開始する事業年度から、以下のように税制が変わります。

【改正点】
1.地方法人税の創設
 平成26年の税制改正により、法人住民税の税源の一部が国税に移譲されることになりました。これを「法人地方税」と呼びます。国が徴収した法人地方税は、各地方自治体に再配分されるようです。

2.事業税所得割の引き上げ、地方法人特別税の引き下げ
 平成26年の税制改正により、事業税の所得割の税率が引き上げられ、一方で事業税の地方法人特別税への配分率が引き下げられることになりました。

【実効税率の算定】
 東京都にある上場会社(外形標準課税あり)の例をとって、以下、改正後の法定実行税率を算定してみたいと思います。

@ 法人税 : 25.5% → 25.5%
  → 変更なし

A 法人住民税(法人割) : 20.7% → 16.3%
  → 下げた分は地方法人税へ移譲

B 地方法人税 : 0% → 4.4% 
  → 法人住民税法人割の下げ幅がそのまま移譲される

C 事業税所得割(標準税率) : 2.9% → 4.3% 
  → 事業税所得割の税率アップ

D 事業税所得割(超過税率) : 3.26% → 4.66%
  → 同上

E 地方法人特別税 : 148.0% → 67.4%
  → 事業税の所得割が上がった分、こちらは下がる。

 以上の税率を基に、具体的に計算式に当てはめてみます。上場会社を想定する場合、資本金1億円以上ということで、事業税率は「超過税率」の適用法人となります。

【計算式】
平成26年10月より開始する事業年度より適用される法定実効税率

={法人税率×(1+法人住民税率+地方法人税率)+事業税率(超過税率)+事業税率(標準税率)×地方法人特別税率}÷{1+事業税率(超過税率)+事業税率(標準税率)×地方法人特別税率}

={25.5%×(1+16.3%+4.4%)+4.66%+4.3%×67.4%}÷{1+4.66%+4.3%×67.4%}

=35.64%

 ちなみに、従来の平成26年10月より開始する事業年度より適用される法定実効税率は、以下のように計算されていました。

法定実効税率

={法人税率×(1+法人住民税率)+事業税率(超過税率)}÷{1+事業税率(超過税率)}

={25.5%×(1+20.7%)+7.55%}÷{1+7.55%}

=35.64%

 すなわち、平成26年税制改正基づく実効税率は、算定式の構造は変わったものの、税率そのものは「従来より変更なし」ということになります。


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posted by ふみふみ at 11:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 税制改正のお知らせ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする