今回の記事も含め、非上場株式の評価手法について、いくつか解説していきたいと思います。
基本的には、以下のような図式が成り立ちます。
● 上場会社の株式 → 株価市場の株価
● 非上場会社の株式 → B/S(貸借対照表)の純資産価額 ÷ 発行済株式数(いわゆる1株当たり純資産法)
上場会社の株式の場合、M&Aが行われる際などに、適正株価の問題が出てきますが、市場の値段が厳然と存在しているので、市場株価とそれほど乖離させることはできません。過去の3カ月平均や6カ月平均を採用するなどして、市場株価の9掛けぐらいで合意するのが一般的です。
ただし、非上場株式の公正価値の評価については、いくつかの手法が存在し、場合によっては1株当たりの純資産価額よりも、株価を高く評価したり、低く評価したりすることが可能となります。
● 株式を高く評価したい場合
一般的に、ディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)法が使用されます。これは企業将来の収益獲得能力を現在価値に置き換えて会社の価値を評価する手法です。具体的には、
(1)評価の対象となる会社の事業計画を入手し、その事業計画に基づき、各将来事業年度で生み出される将来収益(キャッシュ・フロー)を予測する。
(2)各将来事業年度の将来収益を現在価値に割り引く(ディスカウント)。
(3)将来収益の現在価値に、現預金などの余剰資産を加算し、有利子負債を控除して株主価値を算出する。
(4)株主価値 ÷ 発行済株式数 = 1株当たりの株式価値
この手法ですが、まず将来的な事業利益を予想するところがポイントです。それを作成すること自体が手間であり、IPOを目指す会社でもない限り、通常の非上場会社ではなかなか作成していないものと思われます。
また、将来的な予想収益が巨額であるほど高額の評価で算定されるため、現状の損益と将来的な予想収益に大きな乖離がある場合は、その理由づけに正当性があるかどうかが問題となります。
また、現在価値の割引の際に使用される各指標(資本リスクプレミアム・β値・サイズリスクプレミアムなど)の適正性についても、採用される数値によって計算結果が変わるので問題となる場合があります。
DCF法は、IPO途上の会社が第三者から資本を調達する場合や、M&Aが行われる場合など、株式を高めに評価するニーズがある場合に使用される傾向があります。
● 株式を低めに評価したい場合
類似業種比準方式、もしくは配当還元法を使用することにより、概して株価が低めになる傾向があります。
類似業種比準方式は、主に主要株主が所有する株式を評価する場合、配当還元方式は少数株主が所有する株式を評価する場合に使用される手法です。
@ 類似業種比準方式
複雑ですので、別記事にて詳しく解説したいと思います。
A 配当還元法
この評価方法は、あくまで特例です。
少数株主の場合、原則会社を支配していないので、所有株式には「配当の期待」価値ぐらいしかありません。なので、例外的に株価を以下の計算式で計算します。
1株あたり資本金額 × 配当率(%)/10%
つまり、もしとある少数株主が100万円で出資した場合で、毎年の配当が10万円ずつであれば、株式の価値は当初の取得価額と同額の100万円になります。配当率が10%よりも大きい場合は価値が上がり、少ない場合は価値が下がります。
ところで、ベンチャー企業や中小法人などでは、過去に一度も配当をしたことがない会社が数多く存在します。その場合はどうなるのでしょうか?
配当率が5%以下の場合(無配を含む)は、一律5%配当とみなして評価します。すなわち、前述の例でいうと、無配の場合は、100万円の半額の50万円として評価されます。なので、当初の出資額の半額の評価とすることが可能なのです。税法における配当還元法の採用条件ですが、会社の規模などは関係ありません。同族株主以外の者が所有している限りは、一律に認められます。
【利用される場面】
相続財産としての評価をする場合は、このように半額に評価されることにより所有者は得しますが、株式を譲渡する場面になると、半額で売ってしまうと売り手側は損をすることになります。なので、株式譲渡の際は、DCF法、純資産価額法、直近売買事例法(当初の取得価額と同額で売却できる場合など)が一般的に採用され、あまり日の目を見ることはないようです。
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