今回の記事は、相続税の基本的な計算過程についての解説です。相続税の納付額の計算は、
@ 相続財産の評価計算
A 財産評価後の納税額の計算
の二段階からなります。
もっぱら「相続対策」というのは、@の相続財産の評価計算が焦点となります。
いかに自己の所有する財産を「低め」に評価計算されるようにするかというのが相続対策の目的であり、10年、20年がかりで様々な対策を講じていくことになります。不動産の評価や非上場株式の評価などを中心に論点が盛り沢山なので、相続税の申告書を税務署に提出した後、見解の相違を理由に何度も訂正・再提出を求められる原因ともなります。この点に関するアドバイスが、資産税専門税理士の腕の見せ所でもあるので、いろいろな対策本が過去何十年にもわたって出版されているところです。
その一方で、Aの財産評価後の納税額計算については、ほぼ一本道です。
私のブログ記事も@の相続財産の評価額をいかに下げるか、という切り口が多くなる傾向になると思いますが、今回はAの納税額の計算過程を、最低限の知識として概括的に抑えたいと思います。
まず、相続財産の評価計算が終了したものと仮定して、その後の納税額の計算式は、以下のとおりとなります。
● 計算の第一段階 : 課税遺産総額を以下の数式で算定します。
+)相続財産(不動産、有価証券、現預金、書画骨董など) ※1
+)みなし相続財産(受取保険金や死亡退職金) ※2
−)みなし相続財産の非課税分 ※2
+)相続開始前3年間の贈与財産 ※3
−)相続債務 ※4
−)葬式費用、弔慰金 ※5
−)基礎控除5000万円(平成27年1月1日より3000万円)
−)法定相続人数×1000万円(平成27年1月1日より600万円)
= 課税遺産総額
※1 国や地方公共団体、特定の公益法人などに寄付(遺贈)することにより相続財産から除外できる特例があります。売却の難しい書画骨董や山林などでよく用いられます。
※2 被相続人が死亡した際の生命保険の受取金や死亡退職金も、相続税上は「相続財産」と判定されるので留意が必要です。
ただし、それぞれが「法定相続人数×500万円」という非課税枠が設けられているので、
・生命保険に加入してその分の現預金を相続財産から除外し、簿外資産としておく
・事業オーナーの場合法人に現預金をプールしておき、最終的に死亡退職金として受け取ることによって、所得税及び相続税をダブルで節税する
などの相続対策がメジャーな手法として用いられます。
※3 いわゆる「駆け込み贈与」を防止するためです。ただし事前に納付していた贈与税は相続税額から控除可能となります。
※4 不動産をローン付きで購入していた場合、相続財産の算定過程においてローンは100%の金額でマイナス財産と評価されますが、不動産は様々な理由により購入額よりも低めに評価される傾向があります(別記事をご参照下さい)。
それゆえ、ローン付きで不動産を購入することは、相続対策の王道として昔から用いられている手法です。
※5 葬式費用や弔慰金のほか、墓地や仏壇なども相続財産から除外されます。
● 計算の第二段階 : 課税遺産総額を各法定相続人に分割します。
課税遺産総額の算定が終了したら、まずはそれを法定通りの割合で相続したものと仮定して、各相続人に分割します(実際の相続割合はともかくとして)。例えば、相続人が妻一人、子供二人であれば、妻が2分の1、子供は各々4分の1ずつに分割します。
これは、相続税を計算する際に遺産の分割の仕方によって金額が変わることを防ぐためであり、納税総額を法定相続割合で相続した場合の金額で確定させてしまう、ことが目的です。
この分割された金額にそれぞれ相続税率を乗じることにより、各相続人の相続税額を計算します(※6)。この結果算出された各相続人の相続税額を一度合算し、さらに実際の分割割合で、各々が負担する相続税額を再配分します。
※6 平成26年までの相続税の税率及び控除額は国税庁のホームページをご参照ください。
http://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4155.htm
● 計算の第三段階 : 各相続人の負担する相続税額の配分額が計算されたら、以下の加算や控除を行うことにより最終的な納税額を各相続人ごとに計算します。
+)各相続人の負担する相続税額
+)2親等以上の相続人に対する2割加算 ※7
−)贈与税額控除 ※3
−)配偶者の税額軽減 ※8
−)未成年者控除 ※9
−)障害者控除 ※10
−)相次相続控除 ※11
−)外国税額控除 ※12
−)相続時精算課税制度に係る贈与税額控除 ※13
※7 孫が財産を取得すると実質相続を1回免れていることになること、また法定相続人でない人が財産を取得することはそもそも偶然性が高いことを考慮して、一親等や配偶者以外の者が相続する場合は各人の相続税額に20%が加算されます。
※8 配偶者が取得した財産は1億6000万円までは非課税となります。
また、法定相続分以下であった場合は、1億6000万円を超過したとしても非課税となります。
これは、死亡した被相続人の財産形成に貢献した配偶者が一人残された場合の生活を保護することが目的です。
ただし、遺産分割で揉めてしまいますと適用を受けられなくなる可能性があるので留意が必要です。また、配偶者控除を適用した結果相続税がかからないことがわかり、そもそも相続税の申告書を提出しなかった場合は、配偶者控除の適用を放棄したことになり、追徴課税が来てしまうので申告書の提出は必ず行う必要があります。
※9 未成年者控除
成人に達していない法定相続人は、その未達年数×6万円だけ税額控除できる特典があります(1年未満は1年として切り上げる)。
※10 障害者控除
70歳に達していない障害者については、その未達年数×6万円だけ税額控除できる特典があります。なお、特別障害者の場合は、未達年数×12万円となります。
※11 10年以内に2度以上同じ財産について相続があった場合は、年数に応じて税額控除の特典があります。
※12 外国に存在する財産で、すでに外国の法律で相続税に相当する税額を納付している場合は、日本国内における相続税から控除できます。
※13 相続時精算課税制度に基づいた贈与税を納付している場合、相続税額から控除することが可能となります。
(相続時精算課税制度:65歳以上の親から20歳以上の法定相続人に対して2500万円までは無税で贈与、2500万円以上の部分は一律20%で贈与することが可能となり、相続発生時に計算された相続税と精算する制度のこと。ただし、110万円の暦年贈与との併用は不可。)
以上が、相続税の納付額の算出過程となります。
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