今回の記事は、不動産を法人所有した場合に、その法人の株式の相続時の評価額を下げるために留意する点について考察したいと思います。
非上場株式の相続が発生した場合、財産評価基本通達に基づき株式の価値を評価することになります。1株当たりの純資産額を算定しそれを1株当たりの評価額とすることが最も簡単で分かりやすい方法でありますが(これを純資産方式と言います)、非上場株式の場合、これに代えて類似業種比準方式という算定方式を選択できる場合があります。詳細な説明は今回の記事では省略しますが、この類似業種批准方式を使用して株価を算定すると、純資産方式よりも株価を安く算出できるケースが多いのです。
なので、類似業種比準方式を採用できる条件が整っているかどうかは非常に重要なのですが、土地保有割合の高い会社(「土地保有特定会社」と言います)については、類似業種比準方式の採用について一定の制限が設けられておりますので、注意が必要です。
すなわち、土地保有割合が大きい会社については、会社そのものが土地の価値とほぼ同一なものと考えられるため、原則として純資産方式で評価するように求められているのです。
@ 会社の所有する不動産を財産評価通達に基づき時価評価する。
↓
A 土地の評価を反映した会社の実質的な純資産価値が算出される。
↓
B 結局、不動産所有会社の株式の評価額が、不動産を直接所有していた場合と変わらない結果となってしまう。
この状況を回避するためには、土地保有特定会社と判定される条件を把握しておく必要があります。
ここで、土地保有会社の従業員数が5人以下であると仮定すると、以下のようになります。
● 総資産価額(帳簿価額)が10億円以上の会社(大会社)
… B/Sに占める土地の割合が7割以上だと、類似業種比準方式の適用ができない。
● 総資産価額(帳簿価額)が5000万円以上10億円未満の会社(中会社)
… B/Sに占める土地の割合が9割以上だと、類似業種比準方式の適用ができない。
● 総資産価額(帳簿価額)が5000万円未満の会社(小会社)
… 類似業種比準方式の適用が可能。
不動産を保有する件数が地方のアパート物件1、2棟である会社の場合、総資産価額が5000万円未満というケースもあり得ますが、ここでは5000万円以上の総資産額を有する法人の場合を考えます。また、相続発生時においては収益不動産の建物部分については減価償却が終了しており、帳簿価額がなくなっているものと仮定します。
中会社の場合は、総資産価額のうちの1割以上を土地以外の資産で構成すればよいのですが、例えば修繕積立として預貯金をいくらか蓄えておけば、何とかクリアーできると思われます。しかし、総資産価額が10億円を超えるぐらい不動産を所有してしまうと、例えば10億円のうちの3割、3億円以上を現金等で構成しなければならないので、これはなかなかハードルが高いと思われます。
この場合、まだ減価償却が終了していない物件の建物部分+現預金で、総資産価額の3割を超えるように、B/Sを上手くハンドリングする必要があるでしょう。しかし、もっと確実な方法として、総資産価額が10億円を超えそうになる前に会社は二つに分けるという手法が考えられます。
さらに言えば、不動産所有会社においても毎年法人税申告を行うことになり、その際に適用される法人税率については、課税所得が800万円未満か800万円以上かで大きく変わってきますので、どのみち不動産保有会社は分散化したほうが、法人税、相続税、両方の意味でメリットがあることになります。
不動産所有会社を運営する際は、一つの会社のみで不動産を所有しないように留意し、どのタイミングで複数の法人を所有すべきか、考えながらビジネス展開をしていきましょう。
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