2013年05月31日

不動産保有会社の株式評価額を下げるためのポイント


 今回の記事は、不動産を法人所有した場合に、その法人の株式の相続時の評価額を下げるために留意する点について考察したいと思います。

 非上場株式の相続が発生した場合、財産評価基本通達に基づき株式の価値を評価することになります。1株当たりの純資産額を算定しそれを1株当たりの評価額とすることが最も簡単で分かりやすい方法でありますが(これを純資産方式と言います)、非上場株式の場合、これに代えて類似業種比準方式という算定方式を選択できる場合があります。詳細な説明は今回の記事では省略しますが、この類似業種批准方式を使用して株価を算定すると、純資産方式よりも株価を安く算出できるケースが多いのです。
 なので、類似業種比準方式を採用できる条件が整っているかどうかは非常に重要なのですが、土地保有割合の高い会社(「土地保有特定会社」と言います)については、類似業種比準方式の採用について一定の制限が設けられておりますので、注意が必要です。
 すなわち、土地保有割合が大きい会社については、会社そのものが土地の価値とほぼ同一なものと考えられるため、原則として純資産方式で評価するように求められているのです。

@ 会社の所有する不動産を財産評価通達に基づき時価評価する。

A 土地の評価を反映した会社の実質的な純資産価値が算出される。

B 結局、不動産所有会社の株式の評価額が、不動産を直接所有していた場合と変わらない結果となってしまう。

 この状況を回避するためには、土地保有特定会社と判定される条件を把握しておく必要があります。
 ここで、土地保有会社の従業員数が5人以下であると仮定すると、以下のようになります。

● 総資産価額(帳簿価額)が10億円以上の会社(大会社)
 … B/Sに占める土地の割合が7割以上だと、類似業種比準方式の適用ができない。

● 総資産価額(帳簿価額)が5000万円以上10億円未満の会社(中会社)
 … B/Sに占める土地の割合が9割以上だと、類似業種比準方式の適用ができない。

● 総資産価額(帳簿価額)が5000万円未満の会社(小会社)
 … 類似業種比準方式の適用が可能。

 不動産を保有する件数が地方のアパート物件1、2棟である会社の場合、総資産価額が5000万円未満というケースもあり得ますが、ここでは5000万円以上の総資産額を有する法人の場合を考えます。また、相続発生時においては収益不動産の建物部分については減価償却が終了しており、帳簿価額がなくなっているものと仮定します。
 中会社の場合は、総資産価額のうちの1割以上を土地以外の資産で構成すればよいのですが、例えば修繕積立として預貯金をいくらか蓄えておけば、何とかクリアーできると思われます。しかし、総資産価額が10億円を超えるぐらい不動産を所有してしまうと、例えば10億円のうちの3割、3億円以上を現金等で構成しなければならないので、これはなかなかハードルが高いと思われます。
 この場合、まだ減価償却が終了していない物件の建物部分+現預金で、総資産価額の3割を超えるように、B/Sを上手くハンドリングする必要があるでしょう。しかし、もっと確実な方法として、総資産価額が10億円を超えそうになる前に会社は二つに分けるという手法が考えられます。
 さらに言えば、不動産所有会社においても毎年法人税申告を行うことになり、その際に適用される法人税率については、課税所得が800万円未満か800万円以上かで大きく変わってきますので、どのみち不動産保有会社は分散化したほうが、法人税、相続税、両方の意味でメリットがあることになります。

 不動産所有会社を運営する際は、一つの会社のみで不動産を所有しないように留意し、どのタイミングで複数の法人を所有すべきか、考えながらビジネス展開をしていきましょう。


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2013年05月08日

B/Sの「社長借入金」が「相続財産」に変貌する!


 以前の記事でも取り上げましたが、先日行われた平成25年度税制改正により、平成27年より発生する相続については基礎控除額が下げられることとなりました。以前は「大金持ち」の話であった相続税の話も、今後は「小金持ち」クラスでも気にしなければいけなくなってくる傾向にあります。業界の見方ですが、今後「法人税は下がるが、所得税・消費税・相続税は上がる」と言われております。

●法人税が下がる … 企業を活性化するためには、他国に比較して上げるわけにはいかない。

●所得税が上がる … 累進課税なので、金持ちからは多めに税金を取るため。

●消費税が上がる … 所得税や法人税では納税しないような方々からも税金が取れるため。

●相続税が上がる … お金をあまり使わない高齢者から、消費活動の活発な若年層に富を移動させるため。

 相続税に関して言えば、すでに伝説となりつつあるバブル期時代、最高税率は70%でした。最近は、最高税率が50%まで下がっておりましたが、平成25年度税制改正により55%に上がっております。将来的には、再び最高税率70%の時代が来ると予測している人もいるほどです。こうなると、相続税制度のない東南アジアの国々へ移住したくなる人々も出てくるというものです。

 さて、相続対策の基本ですが、王道は「現金を不動産に変える」ことだと言われております。これには融資を受けて不動産を購入することも含まれます。なぜなら、現金で持ち続けた場合、相続発生時には100%評価で課税されますが、不動産の場合は相続発生時に固定資産税評価額等で評価されるのが一般的であり、それが実際の購入額の70%ほどであるケースが多いからです(その他、小規模宅地の特例や借地借家権割合のメリットなどがありますが別の記事で掲載します)。

 この相続財産の評価でうっかりすると落とし穴に嵌りやすいのは、会社を経営しているオーナー社長が自身の会社に対して貸付金を有している場合、逆に言えば会社のB/S(貸借対照表)において社長に対する「個人借入金」が計上されている場合です。

 経費の領収書を会社の帳簿に付けてもその精算金を社長が受け取っていなかったり、一時的に会社に資金を注入したまま忘れていたり、税務調査による修正申告の結果個人借入金が計上されたり、いくつかの理由で会社のB/Sに社長に対する借入金が計上される場合があります。しかし、オーナー社長自身が「会社にお金を貸している」という自覚がないため、そのまま放置されがちであります。この「会社に対する貸付金」が、現金と同じく相続上は100%評価となるため、気付かないうちに相続財産がとんでもない金額になっていた、という状況になりかねないのです。

 この対策としては、DES(デット・エクイティ・スワップ)を行い、貸付金を株式に変換するという手法があります。貸付金であれば100%評価となってしまいますが、非上場会社の株式となれば、株式の評価の際に類似業種比準方式を採用するなどの手法により、評価額が下げやすくなるのです。ただし、資本金が1億円を超過すると外形標準課税が課せられたり、交際費が全額損金不算入となったり、いろいろ税制上不利な面もありますので、減資と併用することも考えられますが、処理に手間がかかります。

 別の対策としては、やはり会社が経営者に対し、役員報酬ではなく借入金の返済、という形で資金を振り込んでいくことです。会社に余分に利益が計上されるとどうしても役員報酬や退職金という形で支払いたくなるものですが、法人税の実効税率は高くても35%ほどですので、相続税の最高税率が将来的に70%になると仮定すると、それよりは納税額は断然低いことになります。また借入金の返済であれば、経営者に所得税が課せられないメリットもあります。
 
 ある程度規模の大きい法人を経営されていらっしゃる方が役員報酬を設定する場合、法人税率と所得税率のバランス(住民税も含む)を検討したり、給与所得として受け取る金額と退職所得として受け取る金額のバランス(退職所得の方が納税額が少額になるため)について検討することになりますが、合わせて会社の「個人借入金」が相続財産に「化けた」際の相続税率についても注意しなければいけませんので、気を付けましょう。


 
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posted by ふみふみ at 15:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 相続対策と事業承継 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする