2013年04月16日

信託を利用して相続税を大幅圧縮


 今回は、相続対策で信託を活用するスキームについてご紹介いたします。これは、大手の信託会社ではなく、小回りの利く中小の信託会社さんにご提案いただいているスキームです。

 まず、順調に業況が伸びており、毎年自社株の評価額が上昇することが見込まれる非公開のオーナー会社「A社」があるとします。A社の現オーナーは、このまま手をこまねいていると、毎年自社株の評価額が上がってしまい、将来的に相続が発生した際は大変なことになってしまう、という認識はお持ちです。しかし、自社株の評価額を下げるために、故意に会社を赤字にするのもさすがに躊躇われる、とも思っております。つまり、自社株の評価額は下げたいが、会社の業況は順調に伸ばし続けたい、というニーズです。それでは、今のうちに代表を引退して贈与等の手法で子供に自社株を渡してしまうのが一番いいのかというと、引退してまったく収入がなくなるのも困る、せめて配当収入は確保したい、と考えております。子供が夜の街で浪費するかもしれないので、配当収入までは渡さずに、経営権だけ譲渡することができないか、と。
 この、相続税の圧縮をしたいというニーズ、また、経営権と配当を受け取る権利を分離して事業承継をスムーズにしたいというニーズ、を総合的に解決に導く手法の一つに、「信託」を利用するスキームがあります。

@ まず、信託会社と信託契約を締結し、自社(A社)株を「信託」します。
A 引退する親は、配当を受け取る権利(収益受益権)を受け取ります。
B 会社を引き継ぐ子は、議決権を行使する権利(元本受益権)を受け取ります。

 以上により、信託会社への信託報酬は発生するものの、配当を受け取る権利と会社を経営する権利の分離は完成です。
 信託スキームを使う利点は、ここで、同時に相続税の節税対策が可能になるということです。
税法上は、この信託スキームを組んだ時点で、子に「元本受益権」部分が「贈与」されたとみなされます。また、親が他界したときは、「収益受益権」部分に「相続」が発生したものとみなされます。
 ポイントは、この「元本受益権」と「収益受益権」の評価額です。
 
 財産評価基本通達202(3)において、元本受益者と収益受益者が異なる場合の信託受益権の評価方法が定められております。それによりますと、まず、子の受け取る元本受益権については、以下のように定められております。

「イ 元本を受益する場合は、この通達に定めるところにより評価した課税時期における信託財産の価額から、ロにより評価した収益受益者に帰属する信託の利益を受ける権利の価額を控除した価額」
 → つまり、子が受け取る元本受益権=信託された財産の評価額−親の収益受益権ということです。

 結局、問題となるのは親の「収益受益権」の評価額ということになりますが、これについては以下のように定められております。

「ロ 収益を受益する場合は、課税時期の現況において推算した受益者が将来受けるべき利益の価額ごとに課税時期からそれぞれの受益の時期までの期間に応ずる基準年利率による複利現価率を乗じて計算した金額の合計額」
 → これだけではよくわかりませんね。別の言い方をすれば「将来的に得られる収益を現在の価値に割り引いて評価する」ということです。

 例えば非常に単純な前提として、信託した自社株式の金額は1億円、毎年1000万円の配当が受け取れ、信託期間は10年に設定するものと仮定します。
 複利現価率に基づく詳しい計算過程は割愛しますが、例えば、親の収益受益権は、信託設定当初は、1000万円の配当を10年間受け取れる権利なので、ほぼ1000万円×10年=1億円に近い数字で評価されます。利率の部分が割り引かれ、結局94,790,000円となります。
これが信託期間が終了する10年後には、配当を受け取る権利は1回分しかないので、1000万円に近い数字、8,620,000円と評価されます。10回目の配当も終了したら、ポンカスで、評価額はゼロ円です。
 さらに財産評価基本通達に基づく裏返しの計算で、子の元本受益権の価値は、以下のようになります。
1年目:100,000,000円 − 94,790,000円 = 5,210,000円
10年目:100,000,000円 − 8,620,000円 = 91,380,000円

 すなわち、極端な例ではありますが、信託を組んだ際の子へのみなし贈与額はわずか5,210,000円であり、これに課せられる税額も、1億円を贈与する場合に比較して非常に低いものになります。そして、タイミングよく(と言っては語弊がありますが)10年目に相続が発生したとすると、相続の対象額はわずか8,620,000円となっており、すなわち、当初の贈与財産、相続発生時の相続財産も非常に低額のまま、1億円の株式の譲渡が完成するのです。
 
 また、相続が発生しないまま信託期間満了となった場合ですが、元本受益者である子供に信託財産の名義を変更することとなり、無事株式の移譲も完成します。ここでは特に課税関係は発生しません。
 考え方としては、定期借地権の権利関係も分離型信託の権利関係も同じような権利評価の推移をしますので定期借地権契約で併せて考えるとわかりやすいかもしれません。
 例えば、定期借地権契約では契約当初は借地権者と底地権者に権利関係が分かれますが、定期借地権者が分離型信託の収益受益者に、底地権者が分離型信託の元本受益権者に相当します。定期借地権の契約満了時に定期借地権者の権利がゼロになり底地権者に100%の権利が帰属するように、信託契約の場合は収益受益権者の権利がゼロになり、元本受益者に100%の権利が帰属します。

 もちろん、相続が5年目に発生すれば、5年目の親の収益受益権の評価額となります。また、3年以内に相続が発生した場合は、贈与財産はみなし相続財産と認定されるので、節税効果は少なくなります。ただし、相続の発生タイミングがうまくいけば、非常に節税効果が得られる手法となります。
 元本受益者(今回の場合は子)は10年もの間、何も経済価値を享受できない財産を受け取ることとなりますが、その一方で元本受益者として元本が値下がりする、すなわち「元本割れ」のリスクだけは負っているということで、財産評価基本通達上、信託契約時には低い価値になるという建付けになっているのです。

 この魔法のようなスキームは、対象となる財産の将来的な値上がりの確率が高いほど効果を発揮します。逆に財産から収益が生まれない、もしくは「元本割れ」が起こった場合は、信託報酬だけが掛け捨てになってしまいますので、どの財産を対象に実行すべきかは、慎重に検討する必要があります。

  
参考になるサイト
国税庁:財産評価基本通達
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka/01.htm


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2013年04月10日

不動産所得を圧縮して節税するための管理会社を設立することについての考察


 今回は、不動産所得を圧縮する節税について考えてみます。
 アパートやマンションなどの収益物件をお持ちの方は、個人所有という形で始められるケースが多いと思います。この場合個人に家賃収入が入ってきますので、不動産所得として確定申告を行うことになるのですが、@個人の不動産所得においては経費として付けられる項目が非常に限定されること、A所得税は累進課税なので、所有物件が多くなると税率が跳ね上がること、などに不便を感じるようになります。

 なので、ある程度収益物件が増えてくると、法人を使用した節税対策を考えるようになります。この場合、主に2つのパターンに分かれます。
● 物件は個人所有のままで、新規設立法人にサブリースもしくは管理料を支払う方式にし、個人の不動産所得を圧縮する。
  → 以下、「管理型法人」と言います。
● 物件を新規設立法人に所有させ、個人は役員報酬や給与として収入を得るようにする。
  → 以下、「所有型法人」と言います。

 法人設立のメリットは、主に以下の通りです。
@ 個人の不動産所得の申告に比較して、経費が付けやすい。
 → 法人として事業を維持管理するという観点から、経費の幅が広くなります。
A 贈与などを得ずに、所得を分散することが可能。
 → 法人から配偶者や子供に給与を支払うことにより、不動産収入を所有者本人以外のものに徴収させることができます。
B 法人の実効税率は、年間800万円ぐらいの利益までは、24%ぐらいです。
 → 個人所有の累進課税の税率よりは、かなり低くなります。

 さて、次に「管理型法人」と「所有型法人」のうちどちらを選択すべきかについてですが、すでに個人で不動産を所有されている方が事後的に節税対策を考える場合、「管理型法人」を採用するケースがほとんどだと思われます。物件を個人から法人に譲渡すると、登記費用や不動産取得税がかかりますし、ローンを付けてくれている金融機関にも許可をとらなければなりません。登記留保のまま所有権を移転したと主張するのであれば、ある程度の金額を取得代金として法人から個人に支払う方がよいのですが、節税目的で設立した法人にいきなりまとまった現金があるケースは稀だと思います。

 なので、管理型法人が世の中には多いのですが、自分の所有する物件を自分もしくは自分の親族が管理の体裁をとっているというのでは、実質名目だけの管理会社だと見られるリスクは付きまといます。税務署の中でも議論があるところであり、過去においては賃料収入の10%〜20%ぐらいまでは管理料として法人が徴収するのを黙認していたケースもあるようです。しかし、平成18年に国税不服審判所で下記の裁決があり、雲行きは怪しくなって参りました。

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 「請求人は、自己が所有する本件賃貸不動産について、不動産管理契約に基づき同族法人A社に管理業務を委託し、また、A社においても管理業務の実績があるから、A社に対する本件不動産管理料の支払額(賃貸収入金額の10%)は、必要経費に算入されるべきである旨主張する。
 しかしながら、本件賃貸不動産については、@A社の管理業務とされる定期的な清掃業務等は、別途、不動産管理会社に委託している管理業務と同一のものであり、当該不動産管理会社において本来の業務として行われていることから、当該管理業務をA社に委託する客観的必要性は認められないこと、A本件賃貸不動産の敷地内の看板には、上記不動産管理会社名が明示されており、A社が賃借人及び第三者の窓口等となっている事実は認められないこと、BA社においては、管理業務を実施した記録がなく、A社が管理業務を実施したことを客観的に認めるに足る証拠は認められないことなどからすれば、A社が本件賃貸不動産に係る管理業務を行なったことを認めることはできない。
 したがって、本件賃貸不動産に係る本件不動産管理料を不動産所得を生ずべき業務の遂行上生じた費用と認めることはできない。」(平18. 6.13 熊裁(所)平17-17)

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 結局、通常の管理会社に別途管理料を支払っており、それが賃料の5%ぐらいが相場なので、その管理会社以上に何もやっていない個人的な「管理型法人」にそれ以上の管理料を支払うという立てつけはおかしい、と言うことです。
 その一方で、所有型法人であれば、賃貸収入を法人が得て、役員報酬や給与として親族に支給するということが不自然なく実行できるので、リスクは格段に下がると言えます。

 なお、土地部分が個人所有であれば、「小規模宅地等の特例」が使用できる可能性があり、相続において有利となりますが、法人に所有させる場合、個人は「法人の株式」や「法人に対する貸付金」が相続財産となります。株式や貸付金は不動産を直接所有する場合のような評価減メリットを享受できないので、110万円の贈与枠の範囲で株式や貸付金を贈与する方式で節税対策をとることになります。特に相続開始3年前の贈与は遡って取り消されて相続財産としての扱いを受けてしまうので、相続人以外の者、例えば子供の配偶者や孫に対して贈与すると効果的です。


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posted by ふみふみ at 16:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 資産形成コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする